3.2 「殺人」という「もの」ではなく「人を殺す」という「こと」が存在している

【リョウ@現実世界:教室&図書室】

 どうやらユウコは本当に死んでしまったらしい。

 リョウは目の前の事実を冷静に受け止めていた。死んでしまったものは仕方がない。自分たちクラスメイトがいくら悲しんでもユウコが生き返るわけではないし、犯人が捕まるわけでもない。まして大して関わりもなかった奴らが必要以上に嘆き悲しむのはおかしい。人の死はたしかにセンセーショナルなものだが、世界中のどこかで毎日死んでいく人々にいちいち涙を流したりしない。ユウコの死もその人々たちと変わらないのではないか。ただ近くで起こっただけ。人は自分との心理的距離感よりも、物理的距離感が死の悲しさに影響を及ぼすらしい。


 それにしてもユウコは誰に殺されたんだろう。またどうして殺されたんだろう。

「結果」を気にすることは意味がないかもしれないが、その「原因」を考えることに意味はあるかもしれない。その原因を探ることで以降に同じ結果になることを避けることができるかもしれないからだ。多少理屈っぽいと自分でも思うが、要は犯人を特定しよう、そして新たな被害者が生まれることを防ごう。そういうことだ。

 リョウは放課後にE-schoolにログインするために図書室へ向かった。自分のスマホでネットを使ってもいいが、一応校内ではスマホの使用は禁じられており、見つかると教師陣からお説教をくらうことになる。(E-schoolがある以上、学校側が「スマホやパソコンを使うな!」と言うこと自体がノンセンスなので、ほぼ黙認されているが。)そのため学校でネットを使うときにはパソコン室か図書室にあるパソコンを使わねばならない。

 図書室はいつも通り閑散としていたが、自習をしている人が数人いた。ある程度の進学校では、図書室は「読書室」よりも「自習室」としての機能を果たすことが多い。リョウはパソコンを起動させ、E-schoolに自分のIDでログインした。

 するとミキからDMが届く。


 ミキ:@リョウ リョウくん、いまから時間ないかな?[10/11 16:35]


 んー。E-school上で体育館の周りを調べて、そしてクラスチャットで情報を募ろうと思っていたが、生きている人間の予定が先だ。それに友人の誘いにはなるべく乗るべきだ。


 リョウ:@ミキ 空いてる。[10/11 16:35]


 どうやらE-school上で会いたいとのことだ。図書室のパソコンを遊びの用事に使うのは気が引けたが、家に帰る時間もなさそうだしここでいいか。リョウはミキにリプライした。

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