2 認識できないものは存在しない

2.0 犯人の独白

 さて話を続けよう。私はユウコを殺した。 私はユウコの首をロープで絞めた。あっと驚くトリックや凶器を使ったわけではない。むしろ平凡な殺し方と言えよう。

 そして断りを入れると理解不能な動機が存在するわけでもない。ただ「学校に来ていないから」ターゲットとして選びやすいというだけだ。彼女がE-school上から消えても、ネット上でも不登校になったのか、とクラスメイトは納得するだろう。ただ「やりやすい」というだけだ。

それにもう一つ。私はユウコを使って、2年1組のクラスメイトにメッセージを送りたかった。これはユウコである必要はなかったかもしれないが、誰かが「死ぬ」必要はあった。その意味で個人的な動機による無差別的な殺人事件とも言えるかもしれない。

 さて、犯人、凶器、動機のすべてが分かってしまった今(「私」が誰かはまだわからないかもしれないが、犯人の「存在」はわかったであろう。そして動機も「理解できる」かはわからないが、既に提示された。)、いったい何が謎なのだろう?そもそも問題など存在していないのかもしれない。問題は「解決」されるのではなく「解消」されるといえるかもしれない。

 この事件は一般的な認識を持つ人間からすると「虚構」の世界で起きたもので、真剣に取り合う必要はないと一笑に付すかもしれない。彼らが「現実」と認識できないカテゴリーに属する世界の話だと。「現実」という枠組みが恣意的に作られたものだとすれば、虚構もまたその認識に漏れた枠組みとして定義できるだろう。彼らがどこまでこの問題を「現実問題」として向き合えるか、そこが見どころだ。

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