第7話 新たな道程。


憂いに満ちた深緑色の瞳に

腰まで伸びた艶やかな金色の髪をした

エメラダは、化粧台の前に腰かけた状態で

こちらを向いていた。


メイクか何かの途中だったのだろうか。

右手にはブラシが構えられている。


「あら、その子は…」


見た目に正比例するかのように

可憐で美しい声をしたエメラダは

優しげな表情でそう呟いた。


「えっと…私は…そのっ…」


目の前に突如として現れた

美しい女性を前に思わず自分の身なりを

気にしながら慌てるハルナ。


そのまま自己紹介をしようとするハルナに

向かってエメラダは優しく微笑みながら

問いかけた。


「あぁ、ジーナの妹さんね?

名前は確か…」


「あっ!ハルナです!

初めまして!」


乱れた髪を急いで手で整えながら

その場でお辞儀をするハルナ。


「…って、何で私がジーナの妹だって

分かったんですか?」


お辞儀をしたまま、

やや上目遣いにエメラダを見つめ、

不思議そうに尋ねるハルナ。


「分かるわよ。

だってジーナにそっくりだもの。」


そう言って微笑むエメラダの言葉にのせて

ハルナの頭の中では、先程見かけた看板で華やかな表情を浮かべ続けるジーナの姿がそっとよぎった。


「そっくりだなんて!

私とジーナは全然似てない姉妹だって

昔からとても有名で…!!」


両手を激しく胸元で振りながら全力で否定をするハルナ。


そんなハルナに向かってエメラダは

再び優しい微笑みを浮かべながら答えた。


「本当に良く似ているわよ。

その少し褐色の肌も、猫みたいにふわふわな髪の毛も…あと何よりもその勝ち気な瞳が特にそっくりよ。…そうだ!」


そう言ってエメラダは手にしていたブラシで

ハルナの髪を丁寧にとかすと、鼻歌混じりに軽い足取りでクローゼットの中から一着のドレスを取り出してきた。


太陽のように鮮やかなオレンジ色をしたそのドレスをハルナの胸元へと押し付けると、エメラダは今までにないような意地悪そうな笑みを浮かべてこう言った。


「そうだ、あなたこのドレス着てみなさいよ。絶対に似合うわよ。」


「えぇ!?

無理無理無理無理…!!」


生まれてこのかた

山奥のド田舎でTシャツと短パンという

とてつもなくラフすぎる格好で走り回っていたハルナにとって、こんなド派手で奇抜なドレスなど着る機会どころかもはや目にする機会すらもなかった。


ドレスを頑なに受け取ろうとしないハルナに

ジリジリと詰め寄るエメラダの後ろで

同じようにバロックが

意地悪そうな表情で笑みを浮かべていた事を

ハルナは決して見逃すことはなかった。

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