第2話

魔法のスクロールを手に入れ、意気揚々と帰宅しようとしていたテイは門番に止められていた。


「君、農民だよね? そのスクロールどこで手入れたんだい?」


そう当然ながら魔法のスクロールなど農民が持ち歩く物ではない。

門番から職務質問されるには十分な代物であった。


「何か問題があるんですか?」

「問題はないがそんな高価な物を持ち歩いていたら声をかけない訳にはいかないだろう? それはどこで手に入れたんだい?」


テイは酒場でダスクからスクロールを食事代の代わりにもらった事を門番に話した。


「ふむふむ、冒険者から手入れたのか。なるほど、辻褄が合うが一応確認させてもらおう。白のスクロールだと言っても高価な物だ。そんな物を堂々と抱えているなど不用心だぞ。」


テイは魔法のスクロールを1万マニーで手に入れた。

だからこそ、高い物だという感覚はなかった。

それにダスクが言っていた定価40万マニーなどただの交渉の中の戯言程度にしか考えていなかった。


「えっ。これそんなに高いんですか?」


抱えていたスクロールを門番の目の前に出した。


「あああ、すまない。それは使用済みか、それなら値段はつかない。だが、白のスクロールの未使用なら50万はするだろうな。まぁ中身によって金額も変わるらしいが私もそこまでは詳しくはない。」


(本当に高いんだ。俺の一月の生活費の約5か月分だ........)

ダスク以外から言われると妙に実感が湧いてきた。

紙のスクロールが鉄みたいに重たく感じる。


少し待っていると酒場へ確認に行っていた兵士が戻ってきた。

そして、テイの無実が証明された。


「この辺の治安は良いほうだがそれでも盗賊は少なからずいる。そんな物持ち歩いていたら狙ってくる輩もいるだろう。十分気を付けたまえ。」


お世話になった門番に頭を下げ、どうにか無事に門を通る事ができたが、小心者のテイは誰かから襲われる可能性がある事を門番から忠告され襲撃者に怯えた。





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テイが何度も自分の後ろに誰もいない事を確認しながら家に帰り着く頃には日は沈み、周囲は真っ暗になっていた。


「良かったぁ。家に着いたぁー。」


テイが住む田舎にスクロールの事を知る盗賊などいるはずもなく、ただテイはそれでも無事に自宅に着いたことに安堵していた。

帰ってすぐにテイはスクロールをベットに隠すように置くと、外に出て夕食分の野菜を収穫し、家にあった干し肉と共に夕飯を食べた。

その後、水で濡らした布で体を拭き身体を綺麗にした後に徐に蝋燭を戸棚から取り出し火をつけた。


「今日くらい、蝋燭を使ってもいいよね?」


普段、日が暮れればやることもないのですぐ寝るテイだが、今日は手入れたスクロールを見るまで寝ることなんてできなかった。


「よし! 開くぞ!」


そわそわしていた気持ちを落ち着かせるため軽い深呼吸し、気合を入れ直しスクロールを開いた。

スクロールを開くと中身は全く何も書かれておらず白紙であった。


「やっぱり、俺に才能なんてないか........。」


期待していた分感情の反動が大きくすごく悲しく暗い気持ちになり涙が落ちた。

目の前が滲んで写った文字が良く見えない。

そう、白紙だったスクロールは気が付けば文字が浮かんでいた。


「文字がある! 文字が出たんだ!!」


あまり広くない部屋の中を飛び跳ね喜びを体全体で表現し、更に溢れる感情は奇声になっていた。

止める人もいない部屋でテイは飽きるまで喜び続けた。

少しづつ落ち着き冷静になると手に持っているスクロールに目を通すことにした。


「文字がたくさん出たが、ほとんど読めないや......。」


農村の識字率は高くない。

ほとんどの者は数字と簡単な文字しか読めず、神父や村長ぐらいしか文字を扱う事もなかった。

テイも他のもと同じく読める文字は少ない。


「うーん.....。 大きい文字で書いてるこれは『火種』『水滴』かな? あと2つは読めないし、下に書いてる小さい字はもっとわからないや。」


4つある項目の中どうにか2つの文字を読めたが、他はさっぱりわからなかった。

その2つの文字もたまたま日常的に使う言葉だったため読めただけだった。


「えーっと、じゃあ、とりあえずやってみるか。」


テイはとにかく覚えた?魔法を早く使ってみたかった。


「『火種』」


気持ちを込めた呪文はテイの体に反応した。

体から何かが抜けだす感覚がし、手元に集まり、そして何も起こらずに四散した。


「ん? 何も起きない? いや何かおきた?」


確かに何かあった気がするが何も起きていない。


「『火種』『火種』『火種』!」


何回か同じ呪文を唱えたが結局すべて同じ結果になり、何か起こりそうだが何も起きないという現象が続きテイはヤキモキしていた。


「魔法を使えてる感じがするけど、何も起きないなぁ。もう1つの呪文も唱えてみよう。」


テイはめげずにもう1つの魔法を唱える事にした。

水滴という字のままならきっと水がでるんだろう、そんな事を思いつつ大きく息を吸い込んで唱える。


「『水滴』!!」


大きな声で呪文を唱えた。

そして、先ほどと同様に体から何かが抜けて手元に集まり.......。








テイは意識を失った。

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