第6話

近くの林ではセミが鳴いていた。

照りつける太陽が容赦なく肌を焼いていく。

、、、暑い。

真夏の炎天直下のもと屋上にいるなんてきっと僕はこの暑さで頭がおかしくなったのだろう。

まぁ真夏の屋上で自殺行為でしかない日向ぼっこをしているのは他でもない。

誰かの監視の目がないのがこの屋上しかないからである。

監視カメラもない。

普段立ち入り禁止のため人気ももちろんない。

そんなところで僕は暑いと文句ばかり言う親友、、修哉とともにいた。

もちろん、誰にも聞かれたくない話があったからだけれども。

頬を汗が伝っていく。


「ねぇ修哉」


問いかければ少し不思議そうな顔をしてこちらを振り返る。

食べかけのパンを置いてこちらの話を聞く態度になった彼は「何?」と短く問いかけてくる。


「修哉は将来の夢って何?」

「俺?俺は、、んー、、あれかな、医者」

「医者、、か。なんで?」

「兄さんが医者なのは晴も知ってるだろ?」


修哉の兄は医者で、まだ23なのにも関わらず修哉のことを育てている。

一人で、だ。


「俺は兄さんみたいに誰かを救える、笑顔にできる医者になりたい」

「修哉らしいなw」

「晴は?」


そう問いかけられて言葉に詰まる。

本当はわかっている。自分の見ている夢の内容を。

かつて憧れたあの存在に自分がなりたがっていることに。

それでも昨日の出来事がフラッシュバックをおこす。


「僕は、、、、」


言いたい。

誰かに聞いて欲しい。

頑張れって、言われたい。

見て欲しい。

欲が溢れて行く。


「、、、、、、、、警察官」


誰よりも弱い人の味方で、何よりも市民を助けるために、

偽善なんかじゃない、本当の正義、

誰よりも周りのことを考え、傷つけられてる人を守るために

助けるためだけに手を差し伸べる、、、、そんな、、。


昔憧れた正義のヒーローになりたいから。


「晴らしいな、なれるよ、晴なら」


初めての肯定だった。

初めて夢を否定されなかった。

初めて認めてもらえた。

それが嬉しくて思わず目の前の景色が滲んだ。




自分は1人なんだと。孤独なんだと。

そう叫び続ける僕を見て彼奴の口元が弧を描く。

「それはそれは大変だったね」

そんな甘い言葉を囁けば壊れたように僕はさらに泣き出してしまう。

きっと頼れると思ったからだろう。

「欠落製品が」

「お前みたいな失敗作が夢なんて語るな」

「俺のいう通りにならないのなら死んでしまえ」

「俺が殺してやる」

やっと信じることができると思った大人の彼奴の言葉。

何よりも僕の心を壊していく。

彼奴、、日向咲の言葉の一つ一つが僕の心を鋭利な言葉のナイフで突き刺して行く。

こんなにも苦しむのなら最初から温もりなんて知らなければいいのに。

感情なんて知らなければよかったのに。

この世界はいつだって理不尽だ。

夢を見ることが許されるのは夢を見る権利がある人間だけである。

例えば過去に罪を犯した人間は果たしてその権利を得ることは出来るのだろうか。

たとえ得ることが出来たとしてその者達は純粋に夢を見ることが出来るのだろうか。過去の重荷を背負い自分なんかがと自由な夢など見れないのではないだろうか。

僕はただ背中にのしかかる重い何かを背負って生きることしかできない。

決して過去に何か犯罪を犯したなんてことではないのだけれど。

自殺しようとしてる父さんのことを止めずに早く死ねと見ていた自分は

あの人を直接的でないにしろ殺したようなものである。


「、、はr、、、晴、!!!」


修哉に肩を叩かれてやっと我に帰る。


「しゅー、や」

「なぁに泣いてんだよwほら授業始まるぞ」


そうやって笑った修哉について行きながら

その明るくも大きすぎる背中に問いかける。


「僕に夢を描く資格はあるのかな」


よかったのか。

悪かったのか。

その言葉は修哉には聞こえていなかったようで、こちらを振り返ってなんか言った?と首をかしげるこいつに「なんでもない、遅れるから早く行こ」そう僕は一つ嘘をついた。

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