(3) ステイヤーズ・ステークス、発走

 

 中央競馬の平場のレースの中で、最も長い距離を走るのが、毎年12月に行われるステイヤーズ・ステークス。芝3600メートル。GⅡ。中山競馬場を2周するマラソンレースだ。

 

 特殊な距離のレースなので、あまり頭数が揃わない。それが今年は2頭の素質馬が出てきたことで、皆が嫌った。それでさらに減り、結局9頭立てになった。

 

 1番人気はフレアで1.7倍。2番人気がシルバーソードの4.4倍。ここには同じ3歳勢のラッキーミスト、クーレイ、シクタンが出てきて、それぞれ塩坂一馬、アルフォンソ、イアンとリーディング上位ジョッキーが騎乗だが、人気2頭には大きく単勝オッズに水を空けられていた。3番人気はラッキーミストだが22.3倍。ほとんどマッチレースの様相だった。

 

 関東重賞のテンポが速いファンファーレが鳴り、9頭がゲートに入っていく。1枠白帽子がフレア。7枠オレンジ帽子がシルバーソード。ガチャンという金属音と共に、9頭がゲートを出た。

 

 短距離戦ではないので、猛ダッシュして出ていく馬はいない。フレアも抑え気味。弥生はまたモニタールームで観戦しているが、ハナを拘らないフレアを、この作戦もあるだろうという思いで観ていた。3勝目をあげたレースでは、ハナに立っていないのだ。おそらく誰かを行かして、途中から先頭に立つのではないか。

 

 中山3600メートルはスタートしてすぐスタンド前を通過する。ここで歓声を浴びて、万が一かかってしまってはたいへんだ。だからゆっくり行くだろうということは理解できた。先頭シクタンで第1コーナーに入った。

 

 中山はゴール前1ハロンの標識から上り坂となり、第2コーナーまで続く。フレアは菊花賞で京都をなんなくこなしたが、坂のあるコースは経験が薄い。南條はそれをふまえて、2コーナーまでは抑え気味に行くつもりだった。ヘンに包まれないよう、コーナーは膨らみ気味に進んだ。しかし意外にも絡んでくる馬はなく、シクタンの2番手で折り合いを付けられた。

 

 3番手にクーレイ。そしてラッキーミストはシルバーソードの1つ前の8番手。

 

 向こう正面。レースは動かない。下り坂だがシクタンが少々ペースを落とし、9頭の馬列がその影響で縮まった。

 

 シクタンが第3コーナーに入る。2番手フレア。クーレイは1馬身差の3番手。フレアには絡んでいかない。

 

 長距離戦はスローな淡々とした流れになり、最後の最後でヨーイドンの競馬になることが多い。しかしトップジョッキーが揃う小頭数の競馬で、だれも仕掛けないとは考えにくい。前と後ろに強烈な決め手を持つ馬がいるのだ。なにか策を講じなければ、どちらかの餌食になってしまう。なぜだれも動かないのだろうと、弥生は不思議だった。

 

 アルフォンソを警戒し、このコーナーもいくぶん外目をまわるフレアの南條。彼もまた、全盛時の海外遠征でこのイタリア人に苦渋を味わされていた。このレースではフレアの近くに位置取る分、シルバーソードより怖い存在となっている。

 

 シクタンからシルバーソードまでさほど差がなく第4コーナーをまわる。最長距離レースの2周目に入った。

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