コップの中の漣

新吉

第1話 コップの上の泡

 コップの上のあわ




「乾杯!」


 コップになみなみとそそがれたビールには泡がこんもりと乗っている。放っておけばきえてしまう。垂れておちないギリギリ。僕はゴクゴクと飲む。口髭がつく。この瞬間が好きだ。



「まるで泡かたの夢だ」


「なにお前急に」


「こんな楽しい瞬間、長くは続かない」


「なんだよ今日はなき上戸か?」


「僕の好きなものは皆、きえてしまうものばっかりだ!」


「はいはい、どんまい」


「どうしたらいいかなあ」



 僕はまた飲む。



「とりあえずペースおとして」



 うっ、本当になけてきた。



「おいおい、楽しく飲もうぜ?」


「お前はいいよなあ」


「はいはい、そういやお前今度の祭り行くか?」


「行く、そんで飲む」


「お前は少しさけをへらせ」


「好きだからヤダ」


「好きなもんはきえるんだろ?」


「さけはきえない!」


「きえるっつの!」



 友達はため息をついて、僕の頭を指差した。



「好きなものでもほどほどににしないと。それにお前、酔うと記憶無くすだろ?楽しい思い出を頭に留めておく方が大事だと思うぞ?これから」



 そんな話をした。そして友達は僕にみずをくれた。ありがたい。申し訳ない。サンキュー!ゴクゴクと飲む。僕の体はさっきからアルコールを分解しようと動いている。



 僕の体

 人間ほとんどがみずだと言う

 なら僕はコップだ

 頭は泡でできている

 ビールの泡は苦味を和らげ味を保つ

 フタの役割がある

 きえないように作る

 でもいつかきえる

 クリーミーな喉ごし


 僕の泡はおいしくない

 すぐきえる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る