第5話:君と僕の契り


 ――「個体情報提示エクセ・ステータス


 くぐもった肉声が地底湖に響く。


 併せて、兜の口と目の部分にあたる部位、面甲ベンテールの長方形の隙間から気泡が立ち上っていく。小さな泡がたちまち背後に流れていくのは、僕が黄金のドラゴン――シェルちゃんの角の付け根に掴まり、かつ彼女がゆっくりと水中を泳いでいるからだ。


 進化を経て肌代わりの鎧が敏感になっているのか、少し肌寒い感じがする。


 身の丈ほどの長さになったショートソードは白と金の意匠が施された鞘に収まり、僕の腰当たりに横一文字に取り付けられている。取り付ける場所がちゃんとあるあたり、この身体への興味は尽きない。面白いよね。


「ふんふふんふふん~ふんふんふんなのじゃ~♩」


 シェルちゃんが下手くそな鼻歌を刻む。糞糞うるさくて困るよ。


 何やら機嫌のいいシェルちゃん。

 どうやら彼女は本当に高位のドラゴンだったらしい。


 食事や排泄を始め、生命たる存在が生きる上で欠かせない要素が悉く不必要なのだとか。酸素もいらないため、水中も苦もなく進むことが出来る。


 だがしかし。

 それだけの理由で、僕がこの駄龍を認めたわけじゃない。

 だって排泄と食事、酸素が必要ないのは僕も同じだし。

 全然凄くないし! まだ僕と対等だしぃ! 


 だが、どうしても認めなければいけない要素が、なんと僕の中にあったのだ。

 脳裏に浮かび上がる文字群。これが今のステータスだ。

 あ、やっぱり脳はないんだけどね。


――――――――――――――――――――――――――

 個体名:なし

  種族:流浪るろう白鎧はくがい(変異種)

  Levelレベル:1

種族等級:E

  階級:E⁺

  技能:『硬化』『金剛化』『魔力自動回復(小)』

     『武具生成』『鎧の中は異次元ストレージ・アーマー

     『真龍ノ覇気』『六道』

  耐性:『全属性耐性(小)』

  加護:《金龍の加護》

  称号:《金龍のともがら

状態異常:■■■■■の呪縛

――――――――――――――――――――――――――


 いろいろ突っ込みたいところはあるが、まず注目したいのは加護についてだ。


 ――《金龍の加護》


 これはおそらくシェルちゃんが与えてくれたものだろう。

 何をいうでもなく、知らん顔で与えてくれる当たり、このドラゴンは駄龍であってもいいヤツなのは間違いない。友達になってよかった。得したぜ。


 二日ほど前に気づき、お礼を言った際には「気にすることでもないのじゃ。ほ、褒めたかったら褒めてもいいのじゃ」などと無駄なヒロインっぷりを発揮しようとするものだから、黙って頭の産毛を数本引き抜いてやったんだけどね。


 涙目になった所で軽く撫でてあげた僕は優しい。

 まさしく主人公の鏡。罪な男である。


――――――――――――――――――――――――――

加護――《金龍の加護》

 始まりのドラゴン『始祖龍』が一柱――太陽を司る【金龍皇シエルリヒト】の齎す加護。

 防御力と魔力値、全属性耐性に極大の上方補正。炎属性無効、吸収。

 その加護を受けし者は防御値の秀でた方向へ成長しやすいとされる。進化の過程で【金龍皇】のスキルを継承することも稀にあるが、特別金運が上がるわけではない。お金は大事に使おう。

――――――――――――――――――――――――――


 なんだか最後にいらん補足があるが、これが詳細である。


 僕の場合兜を被ってるから、というより全身鎧だからポーカーフェイスがバッチリ実行されてたんだけど、これを見たときは流石に度肝を抜かした。心臓ならぬ魔石が喉から飛び出るかと思った。


 面甲ベンテールが激しく開閉してガシャンガシャン煩かったためにシェルちゃんに訝しげな目で見られたのはご愛敬。あれ、バレバレだね。ポーカーフェイスできてないね。どうしてだろ。


 ――始祖龍。


 それは神代、秩序神アルバトリオンの手によって創造された、二体の『始まりのドラゴン』につけられた敬称だ。


 僕の記憶はただでさえあやふやだが、彼の存在は嫌でも知っている。

 逆に今の今までその名前が出てこなかったことが不思議なくらいだ。

 冒険者を育てる学校でも当然の如く出てくるのに。


 ……いっそ外部からの圧力で記憶が消されてると言われた方が納得できる。


 まぁ教科書の一ページ目に厚紙で出てくるような、半ば飾りのようなものでもあるだめ、【金龍皇シエルリヒト】と言われてパッと思い浮かぶ人間は少ないかもしれないけれど。


「まさかシェルちゃんが始祖龍だとはなぁ……」


「む、またそれか。譫言うわごとのように呟いておるが、そうたいしたものでもないぞ? 長き時を生きているというだけじゃて。ふふ、こそばゆいからあまり言わないで欲しいのじゃ」


 そうは言うものの、シェルちゃんはどこか嬉しそうだ。


「まさかこんなちょろいヤツが、始祖龍だとはなぁ……子供の頃から抱いていた夢が壊された気分だよ」


「だからそう褒めるでな――褒めてないのじゃぁあっ!? 何でじゃ何でじゃ、其方は我のことをそんな風に思っておったのか!? 失敬であろ! 不遜であろっ! 友達として失格であろぉっ!?」


白髭サンタさんは変装した両親なんだよって教えて貰った事の次に衝撃的だ」


「しかも白髭のじじいに負けるレベルの扱い!? 酷いのじゃ、我の扱いが酷いのじゃっ! 対等な友達であると言ったであろぉおぉぉ……っ!?」


 涙を流しながらわめき立てる始祖龍さん。おかげでぐあんぐあん揺れる。

 ここが空中だったら間違いなく放り出されてるな。危ない危ない。

 水中といえど、気を抜くと波にさらわれるんだけどね。


「いやいやいや、何を今更。元からこういう態度だったでしょ?」


「……あ、確かに」


 いや、そこで納得するのもどうかと思う。


「それに僕とシェルちゃんは友達なんだから、こんな冗談のやり取り当たり前さ! 気にしない気にしない!」


「冗談、冗談なのじゃな……? むぅ、まぁよいのじゃ」


 しかもちょろい。扱いやすくて助かります。

 シェルちゃんは水中を雪のように舞う青白い魔素マナをかき分け、地上を目指した。


 魔物の魔素マナは黒いのだが、本体から離れて長期間経つとこうして色とりどりの色彩を放つようになる。それも個人差はあるのだが、シェルちゃんの魔力の質的に淡い青色が七割を占めている。魔結晶が青白く見えるのもこれが原因だ。理由は不明。


 ステータス上の他の変化としては、称号に《金龍の輩》がついたり、耐性の欄に『全属性耐性(小)』がついたりと、着々と強くなっていることが見て取れる。


 全属性耐性に関してはシェルちゃんの特性なのだとか。

 この始祖龍さん何しても死ななそうだよね。全身金属みたいななりしてるし。

 実際に触れてみると存外に暖かいのだが、やはり触感はえげつなく堅い。


 技能スキル欄に関しては、『硬化』から『金剛化』が派生。

 まったく新しい系譜のスキルとして『真龍ノ覇気』を手に入れた。


 前者の権能としては馬鹿みたいに堅くなるスキル。

 後者の権能は凄い威圧でがきるだけのスキル。

 文字だけ見れば地味な感じはするけれど、その効能は凄まじいだろうと予想する。


 一度暇すぎてフェルちゃんと一緒に耐久力テストをしてみたのだが、『金剛化』を使うと全身が黄金色になって尋常でない硬度の鎧と化したのだ。

 その硬度はフェルちゃんの五十メートル先までズタズタに切り裂く爪の一振りさえ耐えて見せたほど。素晴らしい。


 正直生きた心地はしなかったけれど、それでも「わ、我としては手加減した方なのじゃぁあ……」と泣きべそをかき始めるから許してあげた。

 でもこんなことしてたらいつか死にそう。そうだ友達やめようかな。


 強力なスキルではあるけど、そこでネックになるのは消費魔力量が激しいこと。

 フェルちゃんが言うには、最大限に威力を抑えた息吹を耐えた最初の段階で僕は相当な硬度らしく、それは洞窟内に漂う濃密な魔力を浴び続けたからだろうということ。


 必然魔力値も同じ等級ランクの魔物とは比肩できないほど高くなっており、さらには《金龍の加護》の影響で魔力最大値も上昇しているにも関わらず、三秒で魔力が枯渇してぶっ倒れた。ありえない。


 よっぽどのピンチが訪れない限り、しばらくは『硬化』をメインに使うことになりそうだ。


 そんなこんなで『真龍ノ覇気』は使ってない。ぶっ倒れたくなもん。

 魔力枯渇は状態異常に分類される衰弱のようなもので、無理に無理を重ねると死ぬおそれすらある。少女といちゃこらする前に死ぬなんて嫌。


 ドラゴンの力など今の僕には身に余る。余りすぎる。

 容易に使ったら僕の命の灯火など一瞬で吹き消えるだろう。種火にすらなれていないかもしれない。とにかく危ないのだ。危険。ダメ。絶対。


 あ、そうそう。

 相も変わらず意味深な呪いは消えてないんだけどさ、なにより嬉しいのは名前が『放浪の~』じゃなくなってること!


 ――『流浪の白鎧』


 フェルちゃんが言うには新種。表記も『通常種』から『変異種』になってるね。

 種族等級レイスランクはワンランク、階級レートは三段階アップしている。


 正直放浪と流浪にそこまでの違いはないだろなんて思ったりもしたが、今の僕には『人間の少女に出会う』以外に、これといった目的もあるわけじゃないのでそこまでで否定は出来ない。足が勝手に動かないだけ幸せだ。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 しばらく口を噤んでいた僕だが、おもむろにドラゴンの頭部の金鱗をコンコンと叩く。いくら友情が培われようとも、部屋に入るときのノックって大事よ。


「ねぇシェルちゃん」


「ん? 何じゃ何じゃ。まだ旅は始まったばかりじゃぞ。あ、わかったのじゃ。其方そち、花を摘みたくなったのであろ? まったくこれだから排泄を必要とする下級の魔物は――」


 名前を呼んだだけだというのに、よくもまぁぺらぺらと喋るものだ。


「あのさ、僕に名前つけてよ」


「我ほどの高位の存在となると排泄など必要な――――はぇ?」


 地底湖を出て湿った洞窟内を歩く……いや、どこか楽しそうにスキップする駄龍の頭に腰を下ろし、僕は目の前に広がる見慣れた洞窟の光景を前にそう零していた。


 そして予想通り、素っ頓狂な声が返る。

 同時に踏み出していた足が止まった。


 出し抜けに静止したため強力な慣性が働き前のめりになり、短い手足を振ってどうにかバランスを取ろうとするも、「ひょえぇ」と我ながら情けない声を挙げてシェルちゃんの頭上を転げ落ちる。この鎧の身体にバランス能力を求められても困るのだ。


 しかし地面に叩きつけられることはなく、どうにか鼻先にしがみつくことに成功。するとちょうど目の前でドラゴン特有の細い瞳孔を持つ金色の瞳が、ぶら下がる小さな白い全身鎧の魔物を映していた。


 気を取り直したシェルちゃんが慌てて爪先で僕を持ち上げてくれ、無傷で元のポジションに戻ってくる。ふぅ、ヒヤヒヤしたよ。


 いつもなら悪口の一つや二つ飛ばすのだが、今はこちらがお願いする場面であるし、すっかりお気に入りになった白鎧に傷も付かなかったのでよしとしよう。


 ごほん、と一つ咳をしてから会話を再開する。


「いやさ……こうしてシェルちゃんのおかげで『放浪の矮鎧』から『流浪の白鎧』に進化できたわけじゃん? スキルも増えたし満足なんだけど、やっぱりさ――ステータスの初っ端、名前の欄が空白だと味気ないんだよね」


 僕がいきなりこんなことを言い出したのにはもちろん理由がある。

 ずばり、ステータスの始めに来る個体名の欄が空白なのが気に入らない。


 誰にステータスを見せるわけでもないが、元冒険者としての性なのか空白が目に付く。

 例えばスキルであれば、空白とは何もスキルを持っていないということを示すので、何か一つでもと獲得のために躍起になるだろう。それと同じような感じ。

 空白だと心許ないというか、落ち着かないのだ。

 

「ほ、ほう……我には其方そちのステータスは見えぬが、そ、そうか……いやしかし、其方が我に頼むとは意外じゃ。その……我でいいのかえ?」


「いいも何も、僕はシェルちゃんにつけて欲しいんだよ」


「――っ、よ、よいのじゃ! 我が其方の名前をつけるのじゃぁあ……!」


 僕のキリッとした断言に、シェルちゃんはむふーと言わんばかりの興奮度だ。

 何がそこまで嬉しいのかわからないが酷く鼻息が荒く、巨大な翼もばたつかせるものだから突風が吹き荒れている。天井の魔結晶が雨のように降り注ぎ、何発か的中して痛かった。


「あいたたたたぁっ! な、なんて凶悪な洞窟だ……しかも何でそんなに嬉しそうなんだよシェルちゃん。気持ち悪いな、やっぱりやめとこっかな」


「それは酷すぎるであろっ!?」


 大袈裟なまでにショックを受けるシェルちゃん。金の瞳がうるうるしている。

 妙案。シェルちゃんを泣かせればいい素材が手に入るな。

 ドラゴンの素材はいつの時代も用途が多く、滅多に出回らない貴重品だ。

 魔物全般にいえるが、涙だと主に回復薬ポーション方面で。


 まぁ今すぐにつけて欲しいわけじゃないし、そもそもこの駄龍のセンスを信じてもいいものかと今更ながら不安に思った次第だ。今は我慢、我慢の時なのだ。


「っていうかさ、名前って自分じゃつけられないの?」


「むぅ、つけたかったのに……そうじゃな、魔物において名前というものは極めて大きな意味を持つ。大抵の魔物は進化を重ねるうちに自然と名が定着するのじゃ」


「それが強力な力を持つ魔物――名前付きの魔物ネームドモンスターだよね」


「うむ。もちろん例外はあっての、より上位存在の知恵を持つ魔物――魔王に配下として名付けられる場合と、人間の冒険者――いわゆる魔物使いの眷属となった際に名をもらい受ける場合。大抵はそれらのうちどれかであろ」


 自然と定着するというのは、例えば馬鹿でかい斧をぶん回すオーガ上位種の場合、名前が【大戦斧の大鬼オーガ】と言う風にその魔物の特徴を押さえた個体名になる。僕が覚えてる限りでは【双頭の金獅子】や【血色の醜豚ブラッドオーク】なんてのもいたっけ。


「へぇ……面白い。魔物使いかぁ……」


「……やはり元人間ゆえ、冒険者に興味があるのかえ? 魔王も格好いいと思うのじゃが……その、我が名付けてやっても……や、名付けさせてもらってもいいのじゃよ……?」


 未練がましく、こちらの顔色を伺うように問いかけてくるシェルちゃん。

 どこかなよなよしいその姿からは威厳もくそもない。

 君は本当に伝説の始祖龍なのかい?


 それにしても、魔物使いか。


 この世界の冒険者というものは一人につき一匹の『召喚獣』を連れているのが常だ。召喚獣とは善性を持つ魔物のことであり、ある特殊なアイテムと冒険者の魔力を用いて召喚し、生涯を通して戦場を共に生きることになる大事なパートナー。


 その中でも魔物使いという職業ジョブにつくものは、一人につき一匹という制限が課されておらず、何匹もの魔物を使役する事が出来ることからそう呼ばれるようになったとかなんとか。


 つまりだ。

 僕がこの先、仮に人間に仕えることになるのであれば、召喚獣を持ってない冒険者か制限のない魔物使いかなのだけど――後者の確率が高くなるということである。


「うーん。そこまで未練があるわけじゃないけどさ、これから目的も特にあるわけじゃないし。とりあえず少女といちゃこらしたいからさ。巨乳で可愛い魔物使いを探すのもありかなって。谷間に挟んでもらうんだ」


「我、其方そちのその欲望に忠実なところ、素直に凄いと思うのじゃ」


 一転、呆れたように半眼になるシェルちゃん。


 言いたいことはわかるけど、僕は自分に素直でいたいのさ。猫かぶりなんてやってらんない。空気なんていちいち呼んでられない。ぱーっとやってどーんって行こうぜ! それが一番気楽な生き方さ。


「まぁなるようになるさ。正直シェルちゃんに名付けてもらうのは不安しかないから却下かな!」


「最初に言ってたことと全然違うのじゃぁあ……む、むむむ、そうだ。其方、それなら我と共通の名を持たぬかえ? それならいいであろ?」


「えー、共通の名? 何それ、すっごい胡散臭いぞ。詐欺はダメっておじいちゃん言ってた」


 はやりにはやったおれおれ詐欺だっけ? 

 僕のおじいちゃんは魔導電話に応じる時「はいもしもし」じゃないからね。「儂に息子などおらんわッ!!」だからね。よく電話をかけると開口一番にそう叫ばれたものだ。あなたの息子の息子が僕ですよってね。


……名前や顔は相変わらず想起されないが、そんな身内がいた気がするんだよ。


「胡散臭くなんかないのじゃ! 個体を特定する個体名の他に、第二の名、いわゆる『ファミリーネーム』――『家族』の印、とでも言うべきかの。いろいろと必要な儀式に誓約などもあるのじゃが、共通の名を持てばメリットも大きいのじゃ」


「――家族、か。……人間で言うセカンドネームみたいなものだね。因みにシェルちゃんのファミリーネームは? 君のセンスを聞いておきたいところ」


「そ、それは名付けるときのお楽しみというヤツじゃ! 個体名とは違って、共通の名の根源となった魔物が上位種であればあるほど、その恩恵にもあやかれるのじゃぞ……すごいであろ?」


 変わらず胡散臭そうな目を向ける僕に、「なっ? なっ? すごいであろ?」と繰り返し訴えてくる。

 そんなに必死にならなくても僕は受け入れるつもりだんだけどな。本当は個体名も折りを見て頼もうかと思ってたんだけど……まぁいっか、と一笑に付す。


「……ま、いいよ。どっかで名前ゲットした時にでもシェルちゃんに頼もうかな。どうせ今の状態じゃ僕の身体が耐えきれないとかで無理なんでしょ? 知ってる。僕弱いもんね」


「そ、その通りなのじゃが……確かに聞いたぞ! 約束なのだからの! 言質は取ったからの! いいか、絶対の絶対に我と共通の名を持つのじゃぞ? 勝手に他の魔物に名をもらい受けるでないぞ? 我は確かにこの耳で――」


「あーわかったわかった! わかったから……シェルちゃんと家族になれる日を楽しみにしてるよ」


 僕は自分に正直なのだ。


 少し喧しくダメッ子ぶりを発揮する残念な部分はあるが、彼女と家族になれるのならその選択に是非もない。産まれながらに独り身の僕は友達が欲しい。家族が欲しい。人は一人じゃ生きていけないんだから。


「っ……!! ふ、ふふん、楽しみにしておるがいいのじゃ」


「え、今なんて?」


「楽しみに待ってて欲しいのじゃぁあぁあ……ッ!!」


 涙目になるシェルちゃんに、僕は高笑い。

 

 ああ、悪くないな。悪くない。

 ほんと、楽しみにしてるよ――シェルちゃん。

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