[3]

 峠をいくつか越えた。開けた盆地のような場所に出て、ぼくは幌付きの大型トラックに積み替えられた。他にも拉致された子どもが20人近くいた。全員が男の子で、後ろ手に縛られていた。トラックが出発した。前後にトラックがつき、兵士が自動小銃で監視した。荷台は賑やかだった。泣き叫び続ける子。床の鉄板に頭突きを繰り返す子。口から泡を吹いて意味不明の言葉をつぶやく子。

 ぼくは幌の隙間から外の様子をうかがった。道路のあちこちに砲弾でえぐられた穴があった。それを避けて子どもたちを載せたトラックはのろのろと進んだ。

 やがて平地がとぎれ、山間部に入った。川沿いやなだらかな丘の中腹に、集落が点在していた。大半の建物は破壊され、人影は無かった。それでも通過するたびに、バイクやピックアップトラックに乗った兵士が見て回り、時おり銃声と叫び声が聞こえた。

 太陽が真上に昇った頃、ようやく兵士たちは行軍を停止した。彼らは3台のトラックから子どもたちを引きずり下ろした。

 子どもたちは焼き払われた畑で、整列させられた。自動小銃を構えた数十人の少年兵が取り囲んだ。迷彩色の上着を着た兵士が進み出た。彼だけが大人だった。無帽で髪を短く刈り上げ、左眼の鼻に近いところから頬にかけて深い裂傷がある。ぼくたちと肌の色も違う。何年か前から、この星に暮らしはじめた白い肌の移民たちの1人だった。

 男は子どもたちの列をざっと見て回った。歯切れのいい声で言った。

「貴様らの命は今日から俺が預かる!分かったな!」

「わかりました、しょうたいちょうどの!そういうんだ!」少年兵の一人が言った。

 子どもたちは「わかりました、小隊長どの」と口々に言った。ぼくも言った。声がバラバラだった。声が揃うまで、少年兵たちに殴られた。

 小隊長は全員を見て回ると、10人ずつ4つのグループに分けた。各グループに古参の少年兵2人をつけて、分隊長と副隊長とした。

 3人の女の子と1人の男の子が別に分けられた。女の子の中にマヤがいた。妹の姿を見たぼくは胸を撫でおろした。除外された男の子は立つことが出来なかった。小隊長が屈んで、男の子の右足を調べた。足首の骨を痛めているようだった。小隊長が腰のホルスターから拳銃を抜くと、無造作に男の子の頭を撃った。

 パンと乾いた銃声。男の子は両腕をぐにゃりとさせて倒れた。

 誰かが悲鳴のような声で泣いた。それが合図となって、子どもたちは一斉に泣き出した。ぼくも声を上げて、泣いた。少年兵が空へ向けて、自動小銃を何発か撃った。

 どうにか沈黙した子どもたちに、小隊長が怒鳴った。

「貴様ら、逃げ出せるなんて考えるな!」

 子どもたちは慌てて叫んだ。ぼくも叫んだ。

「わかりました、小隊長どの!」

「逃げても必ず捕まえて殺す!」

「わかりました、小隊長どの!」

「一人が逃げれば、その分隊の残りの連中を全員殺す!」

「わかりました、小隊長どの!」

「戦場がどんなものか教えてやる!」

「わかりました、小隊長どの!」

 2人の少年兵が死んだ男の子の足首を掴むと、畑に引きずっていった。細かい土埃が舞いあがった。畑の西端までいき、少年兵の1人が反動をつけて死体を振り回した。茅がうっそうと生い茂る小さな谷間に、ついさっきまで足を痛がっていた男の子がボロボロになった毛布の塊のように飛んでいった。

 ようやくぼくたちの手首を縛っていた針金が外された。マヤを含む三人の女の子たちはどこかに連れて行かれた。

 少年兵たちの訓練は2週間ほど行われた。湿地を走らされた。急斜面を登らされ、教官の兵士に背後から突き落とされた。怪我をして役に立たなくなれば、どんな運命が待ち受けているか、全員がはっきりと理解していた。必死だった。ぼくもどうにかついていった。

 拳銃と自動小銃は分解から掃除、組み立てとひと通り手順を叩き込まれた。射撃訓練も何回か行われた。覚えの悪い者、不器用な者はしょっちゅう殴られた。内容は相変わらず厳しかったが、この訓練はどういうわけか、ぼくをわくわくさせた。

 翌日、少年兵小隊は西へ移動を始めた。ついにぼくらは前線に送られるのだ。

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