第43話 決着

 トラマルが前に出て、その後ろにリアが追随した。トラマルの影のナイフは、次々に襲いかかってくるおかしな光線を撃ち落す。影に実態はない。いくら影のナイフがおかしな光線に当たったとしても、それは打ち消しあうように消滅するだけで実害はなかった。



「よし。いけるぞ」


「油断しないでよ」


「当たり前だ」



 うずくまるメリルに接近すると、トラマルの投げた影のナイフがメリルの肩に食い込んだ。メリルはさらに叫び声を上げ、荒れ狂う。



「ちょ、ちょっと、余計に刺激してどうするのよ! 近づけなくなるでしょう!」


「いや、これでいい」



 トラマルは納得した様子で前進した。リアにはわからなかったが、メリルへ近づく道はトラマルには見えてきたのだ。


 そして、その道へとトラマルがリアを導く。



「リア、跳ぶぞ!」


「へ!?」



 トラマルはリアを抱えあげると、前進する勢いのままに跳び上がった。おかしな光線は前後左右に放射されている。だが、真上には放射されない。完全に死角になっていたのだ。



「最後は、お前が決めて来い」


「え? いや、ちょっと、それって、まさか……」



 トラマルはリアを地面に叩きつけるように投げた。急降下したリアの先にいるのは、暴走しているメリルである。



「やっぱりかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 リアは、錆びた剣を振りかぶり、トラマルの力が加わった速度でメリルに接近する。



「メリル! こっちを向きなさい!」



 リアの言葉に反応して、メリルが上を向いた。その瞬間だった。



「うりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 錆びた剣の柄で、メリルの額を撃った。あまりの衝撃に、メリルは一撃で意識を昏倒させ、その場に倒れ伏す。ついでに、リアも高所から叩きつけられたせいでメリルと一緒に転がった。



「あ痛たた……」



 辺りはすっかりお菓子の国になっていたが、メリルの暴走は止まった。トラマルのリアの側に着地すると、そのことを確認する。



「終わったな」


「わ、私、メリルに勝ったの!?」


「ああ。そうみたいだな」



 実際はトラマルの力を借りていたので、一人で勝てたわけではないだろう。だが、それでも『勇者』候補の落ちこぼれだったリアが、真の『勇者』に一番近いとまで言われたメリルに勝てたのは大きかった。



「殺さなかったのは、やさしさか?」


「……殺せないわよ。だって、『勇者』は人を守るのが仕事よ? 人を殺すのは、あんたみたいな悪人の仕事だわ」


「くくく……。違いない」



 ふと夜空を見上げてみる。そこには、大きな満月が浮かんでいた。この満月は、今までの戦いをじっと見ていたのだろう。トラマルとリアは、いつの間にかその満月を見つめ続けていた。

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