『勇者』と〈影の一族〉

第40話 〈影の一族〉の戦い

　リアとメリルが戦っている最中、トラマルはサイゾウとの戦闘を行っていた。

「……弱くなったな。サイゾウ」

「……くっ」

　トラマルが影のナイフを投擲するとともに、サイゾウは怯えた表情を見せるようになっていた。あの自らの命すらも捨てているような狂気の姿は、そこにはない。あるのは、メリルに操られて従順な犬に成り下がった一人の男の姿だった。

「今、その呪縛から解き放ってやる！」

　トラマルは『影絵』の黒い虎の背中に乗った。サイゾウの赤い大蛇に乗ったが、その眼は怯えの色を隠しきれていない。

「今だ！　大蛇の頭を食い破れ！」

　黒い虎は牙をむき、赤い大蛇の頭を噛み砕いた。胴体はのた打ち回り、背中に乗っていたサイゾウを振り回す。

　そこに、トラマルがのた打ち回っている赤い大蛇の背中に乗り込んできた。荒れ狂う足場でも、トラマルはしっかりと踏みしめて行動できていた。

「く、来るなぁ！」

　サイゾウは『火影』を使い、炎の壁を作った。いつものサイゾウなら、あくまでも攻撃を優先していたはずだ。それすらもできなくなったサイゾウを、トラマルは悲しそうな目で見つめる。

「もう、休ませてやるよ……サイゾウ」

　トラマルは影のナイフでサイゾウの『火影』を切り裂くと、そのまま影のナイフを投擲した。影のナイフはサイゾウの肩に突き刺さり、『火影』の発動を停止させる。

「まだだ！」

　障壁がなくなったトラマルは一気にサイゾウとの距離を詰めた。サイゾウは怯えた様子で逃げ出そうとしたが、赤い大蛇が暴れているので身動きが取れない。その場に跪き、トラマルが来るのを待つことしか出来なかった。

「これで、終わりだ！　サイゾウ！」

　トラマルはサイゾウの頭を鷲づかみにすると、自分の影をサイゾウの体に送り込んだ。サイゾウは叫び声をあげながらのた打ち回る。

「我慢しろ、サイゾウ！　お前の中に入り込んだ悪魔を、俺が取り除いてやる！」

　それでも、サイゾウの叫びは止まらない。赤い大蛇が消え、黒い虎もサイゾウの中に入っていった。サイゾウの中で、影と影が戦っているのか。

　そして、数分後、サイゾウの声が聞こえなくなった。その顔は、すべてが終わったかのように安らかな顔をしていた。

「まったく。あんな女に利用されやがって。それでも〈影の一族〉かよ。だが、まあ……」

　トラマルは、光魔法を放って優位に立っているメリルを睨んだ。

「お前の仇は、俺がとってやる」