第25話 襲撃
突然、爆発が起こった。観覧車のアトラクションを降りようとしたところで、足場が揺れる。
「な、何!?」
トラマルとリアはビュレットの町の入り口の方角を見つめた。そこにあったのは、お菓子の建物が炎に包まれている光景だった。焼けた甘い香りが風に乗って二人のところまでやってくる。
「え、何? これも何かの演出?」
「……いや、違うな」
遠くから悲鳴が聞こえる。ビュレットの町を覆っている壁も、所々破壊されているようだ。
「敵襲だ!」
トラマルは観覧車のアトラクションから跳び下りた。慣れた様子でトラマルは地面に着地する。
「よし。私も!」
トラマルに続いてリアも観覧車のアトラクションから跳び下りた。だが、その落下したその先には、着地して態勢を整えているトラマルがいた。
「ん?」
「あ、ごめん」
ドスーン、という衝撃音とともに砂煙が舞った。トラマルはリアの下敷きとなり、蛙のようにつぶれてしまった。
「お、お前……殺す……」
「ごめんなさーい! いや、わざとじゃないのよ? トラマルが出来たくらいだし、私もできるかなぁって思って。で、あんたの真似をしてみたら、着地点まで真似しちゃった、っていうだけだから」
言い訳をするリアだったが、その言い訳に集中するあまり、トラマルの上から退くことを失念していた。あまりにもリアが退くのが遅いので、トラマルが激怒する。
「ふがぁー!」
「きゃあ!」
「重いんだよ! 早く退け! あと、もう少しダイエットしろ!」
「乙女に向かってダイエットしろはひどくない!? これでも私、スマートなほうだと思うんだけど!?」
「その腹の贅肉に誓ってもう一度その言葉を言えるか?」
「うぐっ!」
リアはこっそりと自分のお腹を触ってみた。柔らかい感触が自分の手に跳ね返ってくる。
「い、今はそんなことを言っている場合じゃないわよね! さっきの爆発、あれは何なの!?」
「その答えは、もうそこまで来ているようだぞ」
「え?」
耳を澄ますと、二人に怒号のようなものが近づいてきていた。とても夢の国を自称するビュレットの町にはふさわしくない。
その正体は、爆炎を巻き上げながら疾風の速さで二人の前に現れた。
「……サイゾウ!」
「よう。探したぜぇ。お二人さん」
現れたのは、シャドウ・スコーピオンのリーダー、サイゾウだった。なぜ今サイゾウが二人の前に現れたのか、その理由はわかっている。
「復讐か。やはりあのとき命を絶っておくべきだったな」
「そうだな。お前にしては甘いことをしてくれたもんだぜ。だが、おかげで俺は生きている。お前たちへの復讐が出来るってもんだぜ!」
ビュレットの町のいたるところでは悲鳴が聞こえる。おそらく、サイゾウの部下であるシャドウ・スコーピオンが町の人々を襲っているのだろう。今まではここまで派手なことしなかったシャドウ・スコーピオンだが、今回は随分と大掛かりな作戦行動をとっている。トラマルたちのことでたがが外れてしまったのか。
「トラマル。このままだと、町のほうも危ないわ」
「わかっている。どうせお前は止めても行くんだろう? 行って来い。こいつは、俺がとどめを刺しておいてやるよ」
「うん。ありがとう」
リアは錆びた剣を揺らしながら、悲鳴と爆発音がする街中へと走っていった。サイゾウはそれを目で追いながらも、特に気にしていないようだった。
「いいのか? 行かせても」
「俺の目的は、お前を殺すことだからなぁ。まあ、ついでにあの女にも罪を償ってもらうがな」
「罪を重ねているお前たちが罪を裁く、か。滑稽すぎて笑うことも出来ないぜ」
「俺は、お前のほうが滑稽だがな」
「……」
サイゾウの赤い目が光る。口元がいやらしく歪み、邪悪な笑みを浮かべていた。
「マリア姫はもう死んだんだ。もう、ヴァルゴ王国は存在しない。それでも、お前は何を目的に生きている。なぜ俺たちのように力を使って生きようとしない!」
「俺は、醜悪な生よりも、潔よい死を選ぶ。ただ、それだけだ」
「悲劇の主人公のつもりか!? それならば、なぜお前はまだ生きている。死にたいのなら、俺が今すぐ殺してやるよ!」
「悪いが、死に方は自分で選ばせてもらうさ!」
トラマルとサイゾウが同時に戦闘態勢に入った。トラマルは右腕を少し引き、左腕を前に出す。サイゾウは右上を高々とあげていた。
「我が名はトラマル。〈影の一族〉として命ずる。その黒い鎖で絡めとられた呪縛を解き放ち、我の血肉となり踊り狂え!!」
「我が名はサイゾウ。〈影の一族〉として命ずる。その赤い鎖で絡めとられた呪縛を解き放ち、我の血肉となり踊り狂え!!」
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