第10話 牢屋

 リアが次に目を覚ました場所は、薄暗い地下牢だった。



「……へ?」



 何が何だかわからない。しかも、ご丁寧に手足までローブで縛られている。これでは身動き一つとることが出来ないではないか。



「な、な、な、何なの、これ!?」



 リアは無理やり立ち上がろうとして、バランスを崩して転倒した。側に積み上げられていたガラクタの荷物が音を立てて崩れる。



「ぎゃー」


「おい。うるさいぞ。静かにしろ」



 誰かがリアに話しかけた。鉄格子の向こう側。そこに、仮面を被った男がいた。



「あ、あなたは、昨日の晩の侵入者! ……とはちょっと違うわね」



 一瞬、同じ仮面を被っているので昨日の晩の侵入者と同じ人物だと思ったが、体格が随分と違っていた。昨日の仮面の侵入者は小柄。だが、今目の前にいる人物はなかなかの体格の持ち主だ。



「何にしろ、ここはどこよ! 何で私はここにいるのよ! 私をどうするつもりよ!」


「うるさいやつだな。あの人からは手を出すなと言われているんだが、こうなれば仕方がないか。歯の一本や二本は覚悟しろよ?」


「ひぃ!?」



 仮面の男は指をボキボキ鳴らす。その威嚇に、リアは先ほどまでの態度を一変させた。ここは大人しくしておこう。それしかないように思えた。



「そうだ。それでいい」



 仮面の男の口元が、ニヤリと笑った気がした。


 静かになったリアは、状況を整理してみた。自分はラクラク峠で眠っていたはず。それなのに、今は仮面の男に監視され、牢屋に入れられていた。つまり、寝ている間に仮面の男が所属する集団、おそらくシャドウ・スコーピオンに拉致されたのだろう。運ばれているのに気づかなかったのは、何か薬でもかがされたためか。



(私としたことが、油断した~。あまりにも危険な様子がないからって、敵がいるとわかっている場所で居眠りするなんて、本当に、私、馬鹿なんじゃないかしら)



 リアは自分のことを馬鹿だ、馬鹿だと言っているトラマルを思い出した。この状況では、その頭の中にいるトラマルの言葉にも反論できない。


 だが、いつまでもこの状況に甘んじているわけにもいかない。本当にシャドウ・スコーピオンに捕まってしまったというのなら、逃げ出さなくてはいけないのだ。盗賊団に捕まって無事でいることを期待するのは無理があるというものだ。最悪の場合、殺される可能性だってある。



(さて、じゃあ、どうするかってことになるんだけど……)



 リアは牢屋の中を見渡した。物が散乱しているが、どれもガラクタばかりだ。どうやら、ガラクタ置き場を牢屋として使っているみたいだった。リアには普通の牢屋ももったいないということなのだろうか。



(そう考えると、私、盗賊にも馬鹿にされてない?)



 捕虜なら捕虜で、もっと丁重に扱ってほしいと思ったリアであった。



(でも、これは使えるんじゃないかな)



 ガラクタの中には、刃物のように鋭いガラクタもあった。手足はロープで縛られている。そのロープを、その刃物のようなガラクタで切ってしまえばいいのだ。



(よーし。やってやろうじゃないの!)

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