第4話 シックル

 商業の町シックル。荷馬車が行きかい、街路には出店が出ている。王都にも近いこともあり、常に活気のある町である。


 トラマルはこの町で宿を探していた。だが……。



「……」


「……」



 すぐ後ろから注がれる視線に、トラマルの足は止まった。そして、ため息をつきながら後ろを振り返る。そのすぐ後ろには、明るい髪色をした女の子がジトッーとした眼つきでずっとトラマルを見つめていた。もちろん、リアである。



「お前な、まだ何か俺に用があるのかよ。いい加減、帰れよ!」


「帰れるわけないでしょう!? 聖剣をあんなにしたの、あんたじゃない! 責任とってよ! 責任とって、私を養ってよ!」


「お、おい。責任とか、あまり大声で言うなよ。勘違いされたらまずいだろう」



 行き交う人々はリアの言葉を聞き、ジロジロとトラマルとリアを見比べている。若い男女が責任やら養うやら言い合っていたら、何かがあったと想像するのは難くない。



「いや~。責任! 責任とって~!」


「分かった! 分かったから、とりあえず黙れ!」



 トラマルは近くにあったアイス屋でストロベリーキャンディーを買うと、そのままリアの口の中に突っ込んだ。リアの口の中にはイチゴの甘い味わいが広がる。



「うまぁ……」



 甘い感覚にほだされたリアは大人しくなってアイスキャンディーを舐めている。それを見て、トラマルはため息をつきながら今しがたアイスキャンディーを買った店で宿屋の場所を訊いた。



「この辺りに宿屋はないか」


「なんだい。こんな日が高いうちからもう休むのかい?」



 アイス屋のおばちゃんは怪訝そうな眼つきでトラマルとリアを見比べた。



「お盛んなことで」


「おい。マジで変な勘違いはやめろ。他のやつとならいいが、あいつと変な想像をされるのは勘弁だ」


「まあ、若いうちが華だわね。いいよ。教えてやるよ。しっかりと楽しんできな」


「おい。わかっているのか? 絶対にわかってないよな? 違うからな? あいつと俺はそんな関係じゃないからな?」



 おばちゃんは近くにあった裏紙にサラサラと街の地図を書くと、宿屋の場所を指し示してくれた。それはありがたいのだが、終始ニヤニヤとしていたのが気に入らない。



「……ちっ」



 トラマルはおばちゃんからその地図を奪い取ると、さっさとその場を去ろうとした。その後ろからは、アイスキャンディーを嘗め回しているリアがついてくる。


 結局、トラマルとリアは二人で同じ宿屋に泊まることになった。名前は宿屋『あなぐら』。何を考えてあのおばちゃんがこの宿屋を紹介してくれたのかは、あまり考えたくはない。


 小さい宿屋なので、部屋は二階と一階の一つずつ。もちろん、トラマルとリアは一階と二階で別々に分かれて宿泊した。

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