第15話 親友のかげ

巨大な天使は、今日も進む。何処へ行くかは気分次第。僕とミルクがカエル大陸を出発してから一年以上が経過した。そして、僕は十七歳になった。ミルクは二十二歳だっけ。様々な所を回ったが、そこまでおかしい場所はなかった気がする。というか、半分以上は船の上で過ごした。

ミルクは退屈そうに話しかけてくる。

「海は広い。しかし、勇者らしいことを、まだ行っていないぞ。大岩、そろそろ天使君が大陸に辿り着く」

「今度は楽しめるといいのだが……」

とか、話をしている間に上陸。

しばらく歩いていると、あることに気が付く。

「なあミルク、この辺りは図書館が多いなあ。ブック町という所か。それなら、本の名所かもな」

しかし、ミルクは興味がほとんどない。

「この町だけで二十軒以上の図書館があるとか、説明書きがある。時代遅れだよ、本などはな。やはりゲームの時代。封印中だけどなあ」

僕達はとりあえず図書館へと向かう。

そこそこ有名らしい図書館を狙う。図書館では、入場料千円を払い、適当に本を読む。珍しい本は、今のところ見つからない。それに、これだけの本を全てチェックすることは厳しい。ミルクはくつろいでいる。退屈なのかな。そろそろ出ようかと思ったところで、『売る者について』という本を発見。

そこそこ人入りの多い所を見つめていたミルクに話しかける。

「売る者について書いてあるが、それほど詳しくはないな。僕達についてもおぼろげだ。断定していない本というのも、それほど多くない」

ミルクは、それよりも気になることがあるらしい。

「確かに誰かの『記憶』のようにとれる本だ。それよりも、あのボードに知った名があるぞ、大岩」

「えっ!」

たくさんの名前の中に、サッツ、クルミ、ナツ、ミカン、クライの名が読み取れる。単なる偶然だろうか?

ミルクは立ち上がる。

「ボードについては、偶然の可能性も高い。そろそろ次に行こうか」

「ああ」

僕達は、次にたこ焼き屋を目指す。しばらく進むとたこ焼き屋が見えてきたが、少年と少女が木刀で戦っている。しかし、喧嘩には見えない。店屋のお兄さんは笑顔でそれを見ているし。それなら、トレーニングでもしているのだろう。

店屋のお兄さんは我々に気付く。

「珍しいな、ここには人はあまり来ないのだが……」

僕とミルクは彼の話を聞きながら、たこ焼きを食べる。少年は説明を始めた。

「俺は大地。この少女はキオラ。あと、たこ焼き屋のフブキさん。キオラとフブキさんは、図書館になるんだぜ」

大地と名乗った少年は自慢気だが、意味が解らんぞ。

この二人が図書館とは、どういうことだよ。僕とミルクは、ガキにどういうことかを聞かされた。図書館という技術があって、幼年期は十八年ぐらい。幼年期は普通の人のように手足があり、その時代に蓄えた記憶と思い出が、青年期の質に大きな影響を与える。フブキが十七歳ということは、もうすぐ成年だ。成年になると、心はあってもコミュニケーションはほとんどとれなくなるらしい。

この図書館という技術は、何が目的だろうな? 大地とキオラは十三歳。キオラも何時か成年になるだろう。ここでフブキが更に説明する。

「キオラは落札額が五億円以上の、現在トップクラスのスペックを持つ図書館だ。記憶力が全然違うってよ」

「オーナーもうるさいんですよ。正しくしかも幅広く知識を身に付けろって。それから、先輩図書館での勉強も厳しいのです。私は、楽しいことをしていれば、楽しい図書館になれると思うのです」

と、キオラは不満をもらす。

「俺もキオラを大切に扱えって言われている。キオラのオーナー、嫌いなんだよな。金の話ばっかりして」

と大地。

フブキは、それをたしなめる。

「知識を求める者は多い。高度な図書館は、入場料が高くても満員さ。僕は今が成長の大切な時」

キオラはフブキに尋ねる。

「フブキさんは、もうすぐ成人ですね。寂しいですよ。本当にこれで良かったんですか?」

フブキは優しく答える。

「俺はそれほどオーナーに期待されていないし。寂しいって、死ぬわけではないんだぜ。思い出いっぱいで、千年の長さにも耐えられるさ。俺の本は、たこ焼きの作り方ばっかりだったり……」

大地がため息をつきながら言う。

「たこ焼きの作り方なんて、どうでもいいよ。後悔とかないかってこと。俺はフブキさんの図書館は、ギャグで埋め尽くされないかって心配してんだ」

キオラは自慢気に、こちらに向けて話し出す。

「フブキさんは闘技場のランキングが、百二十二位なのです。私と大地も頑張っているのですが、千位以内も達成出来ず、楽しい趣味だけの図書館になると憧れるかも」

僕は少し感心して言う。

「千人以上も参加している闘技場か。百二十二位といえば、かなりのもんだ」

「一万人ぐらい参加している」

と、フブキ。ミルクはキオラに疑問を投げかける。

「さっきのは、やはりトレーニング? オーナーとやらは認めているのか?」

まあ確かに高スペックの技術なら、管理が厳しいと予想出来るが。

僕はフブキ達に興味を持った。

「百二十二位の実力を見てみたいかもな」

「じゃあ、試してみるか。ルールは確認しておけよ」

と、フブキ。フブキによると、闘技場のルールは格闘ゲームに近いらしい。

僕は、リサ姉さんの魂であるデータソードで攻める。だが、与えるダメージが安定しない。フブキは舌を出す。

「強いな。しかし、大岩はまだこのルールに適応出来ていない」

どういうことだ? フブキの攻撃の力は安定しているぞ。僕と何が違うんだ?

そして、僕は惜しくも敗れた。フブキは冷や汗をかいている。

「初めてにも拘わらず、大岩はここまで戦えるのか。レートだよ。ヒートケージが、一定のところで止めると、強いレートが叩き出せる仕組みだ。成長が大きいとレートも変化し、一時的に弱体化する」

ミルクは頷いている。

「なるほど。レートを計算し直さないといけないから、弱体化したように感じるのか」

僕はフブキに聞く。

「闘技場で好成績を残すと、いいことはあるのか?」

「まあ、ユメってことだ。今のところ賞金が出るくらい。それも大した額ではない。楽しいから、大地もキオラも巻き込んじまった。時代は変わる日が来ると、俺は信じているがな」

しばらく話し込んでいると、ミルクがある物に気づく。

「このボード、さっきも見たな」

「ああ、それか。パワーフードっていう売る者の技術だ。俺もよく知らないがな。名のあるパワーフードは高額だが、効果はも桁違いだぜ」

と、フブキが説明する。因みに、フブキが扱っているパワーフードは、種類が少ないらしい。

しかし、売る者の技術が、ブック町まで来ているとはな。驚いたぜ。しかも、知っている名もあった。こことカエル大陸の関係は、どの程度だろう? サッツが六位ということは、世界は広い。まあこれは、パワーフードの効果ランキングに過ぎないけど。ミルクは、闘技場に何か嫌な予感がすると、小声で僕に伝える。

となると、どうしようか。

「闘技場は今日もやってんのか? 一度見ておきたいかも」

「参加は何時でも受け付けている。今から行くか?」

と、フブキ。

「たこ焼き、どうすんだよ?」

と大地。それを無視して、フブキは闘技場へと向かう。そして、僕達もついて行く。ここにもボードがあるんだな。僕の視線に気がついたフブキが説明してくれる。

「百位までのランキングだ。俺も成人までに、ここに入りたいんだが。ポイントでランクが決まる仕組みだよ」

ボードを見たミルクが驚いている。

「ランキング一位がキツキツだと! こんな名前は珍しい。しかし、さすがに偶然だろう」

僕もボードを確認する。

「キツキツ。キツキツ町のヤツが来ている訳がないよな。しかし、ポイントは一万オーバーだ。二位ですら四千程度」

フブキは説明する。

「キツキツってのは今ではダントツだが、上がってきたのは四ヶ月前ぐらいだな。知り合いに似ているのか?」

「とにかく見学しよう。まだ、確かなことは言えない」

とミルク。しばらく試合を眺めていると、遂にキツキツが姿を現す。驚いたことに、外見は『あの』キツキツとそっくりだ。そして、対戦相手は十七位の戦士。

試合が始まる。大地がテンションを上げる。

「やはりキツキツは強いぜ。一撃で倒しやがった」

僕とミルクが驚いているのは、そこではない。確かにフブキでも強く感じた。それをはるかに上回ることが予測される。しかし、驚くべきはそこではない。

「今のは虹のビーム。これでも別人だというのか?」

と、僕とミルクはほぼ同時に叫んだ。

妖精ヘルです。図書館は成人しても心を持つと、理論上説明されています。しかし、図書館の声を聞いた者はいません。そこへムードマニアと名乗る少年が、成人した図書館を信号として捉えます。図書館が信号を送るには、幼年期に楽しい経験をすることが必要らしいです。そしてそれを、『楽しいスパイス』と呼びます。

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