第5話 回転師匠と川中島君

「次にスクリューパスだけど…」

 大橋先輩がスクリューパスの説明を始めた。

「遠くに安定して投げられるんだけど、無理に回転かけようとしないでいいよ。ボールの持ち方を確かめながらやってるうちにわかるようになるよ」

 厳つい感じに見える大橋先輩だが、全員が持ち方なんかをよく見えるように、優しく、丁寧に教えてくれている。


 大橋先輩は俺の兄貴の中学時代からの友達で、昔はよく家にも遊びに来た事があったので俺もよく知っていた。


 ちなみに俺の兄貴の川中島かわなかじま 快晴かいせいがラグビーを始めたのは大橋先輩の影響だ。


 元々俺の家は兄貴の友達の溜まり場だった。


 家のすぐそばに海があり、兄貴と友達何人かでよく放課後や休みになると、我が家に集合して釣りをしていた。

 皆が釣れた魚をもって帰ってくることがよくあったので、親もおかずに困らないと歓迎していた。

 当時は、よくうちの家族と一緒に兄貴の友達も食卓を囲んだものだった。


 兄貴が中学位になり、兄貴は友達の影響でサーフィンを始めた。


 我が家は相変わらず溜まり場になっていたが、我が家へのおかずの供給回数は、兄貴達がサーフィンにハマってしまい、釣りの回数が減ったため随分減ったのだった。


 兄貴とその仲間たちは、波のある日は朝から晩までサーフボードを持って海に出たまんまで、波のたたない穏やかな日は、家の前でスケートボードをやったり気が向いたら釣りをやったり。


 家の親は俺に付き合って柔道の練習で家を空けることが多かったので、中学生の溜まり場には絶好の場所だったのだと思う。


 そんな溜まり場に集まってくる中学生の中の1人に大橋先輩がいた。

 兄貴の中学からの友達の中にはヤバそうなオーラを出している人が何人かいた。

 その中の筆頭が大橋先輩だった。


 当時は不良漫画から抜け出てきたんじゃないかという風貌で、人を寄せ付けない雰囲気があった。

 うちの兄貴と大橋先輩がつるむようになったのは、余り詳しくは教えてくれなかったが、うちの兄貴となんか凄い大喧嘩をしてそれがきっかけで仲良くなったのだとか。


 当時は「漫画の展開かよ」と、我が兄貴の事ながら失笑したのを覚えている。


 うちの兄貴は俺と違い、勉強は出来るし、運動神経も良かった。

 天才肌でなんでもすぐ出来るようになるが、気分屋で、問題をよく起こすのが玉にきずだった。


 ちなみに俺が柔道を始めたのは、元々兄貴が柔道を始める時に俺もついていったのがきっかけだ。


 兄貴は持ち前の運動神経の良さですぐに頭角を現したが、「飽きた」と言って2年程で辞めてしまった。

 周りは引き留めようとしたが、本人の意思は固く、それ以来二度と柔道着の袖に手を通すことはなかった。


 俺はというと、兄貴とは正反対で柔道に対して「これだ!」と思い、それからずっと続けることとなった。

 …でも、もう辞めたけど。


 大橋先輩の話に戻るけど、身長は中学時点でもう180センチは越えていたと思う。

 当時はバスケットボール部に籍はあったみたいだけどほとんど行っていなかったみたいだ。

(毎日我が家に遊びにきていたからね)


 最初の印象は「ほとんど喋らない人」だった。

 ガタイが良くて目付きも鋭くて、喋らないものだから最初はやっぱ怖かった。

 武勇伝も数多くある人みたいだったが、我が家に通いつめるうちに、そういった荒れた部分は鳴りを潜め、周りと打ち解け、よく笑い、よく喋るようになっていった。


 俺の事を凄くかわいがってくれて、俺が柔道の練習がオフで家にいる時は、バスケやスケートボードを教えてくれたりもした。

 教えるのが凄く上手だったのを覚えている。


「そういえば大橋先輩にはスケートボードでキックフリップとかショービットとかの回転系教えてもらいましたね」

(フリップもショービットもスケートボードの回転トリックの種類で、大橋先輩がやるとスタイルが出ててかっこよかったんだよ)


「今度はラグビーでスクリューパスを教えるとはなぁ」大橋先輩はにっこりと目を細めた。


「大橋先輩は俺の回転系の師匠ですね」

俺がふざけてこんなことをいうと、

「じゃあ将来俺が回転寿司の店長になったら、今度は寿司の握りかた教えるか」

 と、ラグビーボールに寿司ネタを乗せて握るジェスチャーをした。

「俺が握る寿司なんか誰も食べたがらないでしょう」

「たしかに!腹壊すかもなあ!」


 俺と大橋先輩がこんなやり取りをやっていると、松田先生から 怒られちゃいました。


 そんなこんなで指導もそこそこに、タッチゲームを開始することになった。

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