第23話 簡単なお仕事

 他種族国と一触触発状態であることは分かっていたが、ここまで種族差別が酷いとは思っておらず、真一は自身の見通しが甘かったことに歯噛みした。

 冒険者ギルドは獣人族領にもあるため、種族差別がないと油断していた。

 職員はまだしも他の冒険者があのように絡んでくることは容易に想像できるはずであった。


「マロン、悪かったな」


 真一は項を掻きつつ、マロンに謝った。


「んー? あんな奴らの言うこと、ぜーんぜん気にしてないよ。ボクには真一がいてくれるからねっ?」


 マロンはにししと歯を見せて笑う。

 そんなマロンを見て、真一はほっと息を吐いた。




 二人は街周辺に出没する魔物の討伐クエストを受注していた。

 大体の街では治安維持のために常設されているクエストである。


 サヴォーナの街周辺に出没する魔物はウルフ系、スライム、ゴブリン程度と低ランク冒険者でも無茶をしなければやっていけるレベルのクエストと言える。


 二人は若い冒険者達を尻目に、人が少ない西側の森付近へ来ていた。

 東側街道とそこに隣接している南北は比較的冒険者が多いため魔物は少なく、安全に狩りをすることができる。

 一方西側には森林が広がっており、比較的強い魔物が多く分布していた。

 王都から中途半端に離れているサヴォーナには戦闘力の高い冒険者が少なく、西側は放置されがちになってしまっているそうだ。


 邪魔がなく狩り放題な西側は、真一とマロンにとっては優良な狩場であった。


 ブォンブォンとモブ魔物を切り払うマロン。

 それを躱せるくらいの知能を持った魔物や戦闘力を持った魔物を真一が側面からスピードを武器に殺していく。

 またスライムも真一の陽炎でしか魔石をとることができないため、真一の担当である。


 正面から戦って鍛えると言っていた真一であったが、今回はマロンのギルドランクを上げることを優先して討伐数を稼ぐように動いていた。

 またレイアが抜けた後はマロンとの二人旅となる。二人で魔物を狩ることも非常に多いと考えられるため、連携の練習も兼ねていた。

 それでも《隠密》は使わずに戦っているが。


 夕方頃、持ち込んだ革袋が討伐証明部位でパンパンになったところで二人は冒険者ギルドに戻った。




 カランコロンとドアベルを鳴らして冒険者ギルドに入ると、受付嬢がチラと真一達を見て、すぐに興味を失ったように手元の書類に目が移った。

 かと思うと、すぐにバッと目を見開いて二人、いやマロンをガン見した。真一はやはり視界に入っていないようだ。


 真一とマロンは共に大きめの革袋を背負っており、両方ともパンパンである。

 真一は未だ存在に気づかれていないが、マロンが背負ったパンパンの革袋に受付嬢やギルド内の冒険者達の視線は釘付けになっていた。


 真一は受付に行き、静かに声をかけた。


「クエストクリアの査定をお願いします」

「ひィッ!? いつの間……あ、いや、か、かしこまりました!」


 真一は頬を引き攣らせつつ、マロンと共にカウンターに革袋を置いた。


「えぇっと……こ、これは……?」

「討伐証明部位です。ご確認お願いします」

「えぇっ!? もしかしてこれ、全部ですか……?」

「その通りですが?」

「か、かしこまりました。量が多いため少々お時間をいただきますがご了承下さい」

「分かりました」


 受付嬢は革袋の中身を見て一瞬放心し、同僚に肩を叩かれていた。

 その後、泣きそうになりながら同僚と共に素材の査定を行っている。


 ギルド内では多くの冒険者がこそこそと小声で喋っており、羨望、疑問、嫉妬、様々な視線が真一とマロンに向けられていた。

 実際はモブ魔物ばかりであるので、ある程度の能力を持った冒険者が二人もいればこの程度造作もないことである。

 しかしそんな能力を持つ冒険者はわざわざモブ魔物掃除の依頼など受けないため、E、Fランク帯でこのような大量は滅多になかった。


 また微妙な位置にあるサヴォーナには、そのある程度の能力を持つ冒険者は非常に少なく、更にはギルド内で管を巻いている冒険者はその中でも底辺に位置する。

 そんな人間たちからしたら、登録早々のFランクの獣人族が大量の素材を持ち込むということは中々に認めたくないことであった。


 真一はそれに気付きつつもガン無視を決め込み、マロンは気づいていないのか全く気にする様子もなく、ギルド酒場で注文した果実水を呷りながら今日の夜ご飯何食べよっかなどと楽しげに話しながら査定結果を待っていた。


 今回のクエストクリアによってマロンはEランクへと昇格した。またポイント的にDランクも間近だそうだ。

 一方真一はDランクのままで、Cランクまではまだまだポイントが必要ということであった。今回の依頼もランク差が合ったためそこまでポイントは入っていない。


 真一はギルドから出る時に何人かから殺意のこもった視線を背中に感じつつ、実力的にも特に問題なさそうであったので気にしないことにした。



 レイアと合流し宿で夕食を取った後、真一がそろそろ体を拭こうと思っているところへレイアがやってきた。


「裏ギルドから依頼が来た。シン、手伝いを頼む」

「明日じゃ駄目なのか?」


 体を拭いて寝ようと思っていたところであった真一は、嫌そうな顔を隠しもせずにレイアに聞いた。


「できれば今日から動きたいんだ。強制はしないが、誰のお陰で魔技マジックアーツを使えるようになったのかなぁ?」


 レイアはニヤニヤとしつつ腕を組んで真一を見下ろした。


「…………分かった。すぐに準備する」

「ふふん、流石はあたしの部下だ」


 真一は苦虫を噛み潰したような顔をしつつ、装備を身に付けた。

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