Episode1  赤い夢


時が経つのは早いもので外を夕焼け色が染める頃には俺たちも、もう帰る時間で

「んじゃ、俺先に行ってるわ」

そう言いまだ準備をしていたその時、不意に襲ういやな予感を、なぎ払うように足を進め、荷物を取りにいつも通り、教室に足を運ぶ。

目に飛び込むいつもとは違うその光景。


「人だかり、、、?なんかあったのか、?」


ざわざわと中を覗く同級生たちの間をぬって教室を覗く。

見なければよかった。

そう思うくらいには酷いその光景に思考が停止した。


「、、、、、、え、」


思わず嘔吐感が襲う。目があった。こっちを見た。首から下がぐしゃぐしゃの死体。数時間前までは共に授業を受けていたクラスメイトが、そこで死んでいた。

何者かの手で殺されていた。

ゲームなどで見慣れているしグロいのは平気だが、クラスメイトとなれば訳が変わってくる。


「、、や、、、くや、、、、拓也!!!」


肩を掴まれこちらを覗き込む郁哉たちを見て、やっとの思いで我にかえった俺の耳に飛び込む声。










「あのハサミってさ拓也のじゃね」












「、、、、、、え、」

















生き絶えるクラスメイトの近くに落ちている、犯行の時に使われたであろうそのハサミは、見間違いだと思いたいくらいには、自分のものだった。







噂が噂を呼び、憶測に憶測が重なっていく。

気が付いた時にはこちらを見て泣きながら叫ぶ郁哉たちと、絶望したようにこちらを見る兄の姿があって、俺の手には手錠がかけられていた。

記憶が飛んだかのように、あのあと何があったのかが思い出せない。

思い出すことを体が拒絶する。

震える口でなんとか言葉を紡ぐ。

涙が頬を伝って、こちらを見て泣き崩れた兄の姿に、抑えていた感情が爆発して泣き喚く。




「 、た、すけ、て、、、、かい、と、、にぃ 」




その声は届いたのか届かなかったのか、こちらに手を伸ばした姿を最後に、俺の意識は途絶えた。






静かな檻の中。

罪人のように囚われた彼が本当に罪人なのかは、あの時教室で赤く散っていたクラスメイトしか知らないのだけれど。




『よかったね嫌いな奴が死んで』



、、、、は?

不意に聞こえた声に辺りを見るが当然誰もいない。

いるはずがない。



『郁哉にくっつくクズだったもんね死んでよかったじゃん』



っ、、、うるさい、、、

確かにあいつは郁哉と仲がよかったけども、部活の仲だ。

別に嫉妬なんか、俺は、、、



『よかったね殺せて』





違う





俺じゃない







俺じゃ、ねぇんだよっ!!!






『夢が叶ったよ』







ちが、う







ガシャンっっ!!!



牢の中でぼんやりと死を宣告されるのを待っていた。

死刑だろうと思っていた。諦めていた。

おまけに聞こえてくる幻聴におかしくなりそうだった。



なのに、




「っ、拓也っ!!!」



檻の中。

なんで、とか、どうして、とか、

色々言いたいことはあったけどそんなことよりも、兄がここにいることに、

助けに来てくれたということに心底安心している自分がいた。



「かいと、にい」



俺に手を差し出し笑う俺のヒーロー。

笑顔で俺の手を掴み外へ連れ出される。

どうしてとか、そんなことはどうでもいい。

ただそこにいてくれるのが嬉しいのだ。

、、、、でも、



「海斗兄、俺、、、殺人鬼かも知んないんだよ?」

「いや、お前じゃないだろ。

冤罪ってわかってるから。

まぁもし本当に殺人鬼なら、、、、

俺を殺してからいなくなれよな」

「海斗兄ってやっぱ馬鹿だよな」

「!?」





赤い血の先にある真実は闇の中だけれども

兄は俺を森から助け出してくれた。






「そういえばあの声どこかで、、、、」

「ん?」

「ううん、なんでもない、帰ろ、海斗兄」








「あーあ、助かっちゃった」

そう行って笑った少年のことなど兄に手を引かれて歩く少年は知る由もない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る