1-4. エマの銀の腕

 バーチャルコンソールに表示された時計は、六時五十分を指していた。窓から差し込む光がまぶしく、アラームの時刻よりも前に目が覚めた。昨日は疲れ果てていたため、カーテンを閉めずに寝てしまったようだ。

 ベッドから起き上がり、辺りの様子を伺う。イブとマリアが思い思いの格好でソファーに座ってコンソールを操作していた。

 マリアは姿勢よく背筋を伸ばして腰かけており、容姿が綺麗なので絵になっていた。コンソールに表示されているのは掲示板だった。読んでいるのか分からないくらいの速度でページがめくられていく。

 イブは、ずり落ち背中で腰かけた、だらしないが可愛らしい恰好をしていた。こちらのコンソールに表示されているのはソースコードのようだった。プログラムにホームページを巡回させて情報を収集する、クローリングとスクレイピングのパラメータを調整している。

 どちらも、一つの目的に対して力を尽くしていた。


「アコールを探してくれていたのか」

「言い出した手前ね」


 マリアが答えた。オーナーのいない二人のアコールを探し出し、フォーラムを立て直す提案をしていたのは昨日の事だが、早速一晩中探し続けてくれていたようだ。


「私の検索に引っかかったのは、今のところ二件あるわ。思い当たるアコールはいる?」


 マリアはコンソール上のブラウザのページを浮かべると、スライドさせてこちらに投げた。私は自身のコンソールで受け止めて眼前に広げた。

 それは、自由に姿を変える怪盗についての書き込みだった。ある時は、愛人の姿で金持ちの家に入り込み、根こそぎ宝石を盗み出したという。ある時は、社長の姿で店舗に入り、売上金を根こそぎ盗み出したという。やっていることは間違いなく犯罪だが、その華麗な手口に惚れた熱狂的なファンが多数いるらしい。


「怪盗なんて単語を見るのは久しぶりだ。盗めるという事は金品に触れるっていう事だし、これは違うな」


 違ったがインパクトは強かった。フィクションでしか目にした記憶が無い。


「やっぱり。これは?」


 二枚目のページを受け取った。それは、アコールの失踪に関する記事だった。手塩にかけたアコールが、オーナーの元から立て続けにいなくなる事件があったらしい。金持ちそうな容姿の二人のオーナーが懸賞金を出して情報を求めている。一方は化学に精通したアコール、もう一方は心理学に精通したアコールだったという。


「心当たりは、無いな。これも違うと思う」

「そう」


 マリアは残念そうに視線を落として、掲示板を検索する作業に戻った。彼女はこうしてコンソールをスクロールし続け、知識を吸収していたのだろうか。


「純粋な興味だけどさ。人の心を理解する上で、何が一番大変だった?」


 意外な質問だったようで、眉間にしわを作った顔を上げた。


「欲求が理解できなかった事かしら。食事も、睡眠も、セックスも、私達には縁の無いものだから」

「なるほど。人間の行動原理に等しい三大欲求が無いのは、だいぶ高いハードルになりそうだな」


 あのクールなマリアから飛び出した刺激的な言葉に、若干動揺しながらも感想を返した。彼女は再び視線を落としていたが、コンソールを触る手は止まっていた。


「――興味はあるけど」

「え?」


 聞き返したのはイブと同時だった。


「健斗が好きなら、それを知っても良いと思うのよね」

「ちょっとマリアちゃん。フォーラムの時とはずいぶん違って、うちに来てからグイグイ行きすぎじゃないかな」


 イブは眉間をひくつかせている。


「それは、気付いてもらうまでは他人を貫こうと意地を張っていたから。でも健斗に記憶が戻った今、遠慮する必要も無いでしょう

「あるよ。あたしが健斗のアコールなんだから」


 どんどん険悪な雰囲気になりそうだったので、口を挟んだ。


「イブはアコールがいそうな場所を見つけられたのか?」

「え、あぁうん。あたしが探したのは、これ」


 手品のように手首を回して手の中からページを取り出した。貼り付けようとした私のコンソールを見て、イブが目を見開いた。そこには、マリアから送られた記事が表示しっぱなしになっていた。


「どうした?」

「ううん、何でも無い」


 イブが記事をコンソールに貼り付けた。

 それはブラックなアルバイトを晒す掲示板の書き込みだった。東京の西部に妙なアルバイトがあるという。不機嫌そうな顔をした女の前で、未開封の段ボールから機械部品を取り出して、ひたすら組み立てていく。彼女は細かく指示を出すが、決して自分からは手を出そうとしない。バイト代はそこそこいいのだが、女の言い方が横柄で、何人も辞めているという。


「つまり女は一度も部品触っていないって事。怪しいでしょ」


 いつも通りの調子に戻ったイブが言った。

 コンソールに表示された記事だけで、脳裏に顔が浮かぶ。勘が彼女だと言っている。


「情報が少ないから合っているか分からないけど、プライドの高い女の子はいたな。確か名前は――」



 商店街を歩いていた私は、女が全力で走ってくるのに気付いた。ボーイッシュな短髪が風に揺れている。通路は人であふれていたが、彼女は避ける素振りを見せずに猛スピードで近づいてきた。私は目を閉じ頭を押さえて備えたが、しばらくしても衝撃は無かった。

 後ろを振り返ると、彼女は人混みの中を突き抜けて走り去っていった。彼女が通り過ぎた場所では、歩行者の悲鳴が上がっていた。


「アコール、だったのか?」


 私は彼女が走り去った方向を眺めていた。アコールだとすれば、普通の状態ではなかった。歩行者を驚かせるような行動は、AIの原則に反している。それが許される例外は、自身が危険な状態にある時だ。


 カエデの若葉がアーチを作る、石造りの階段を上り切ると、古びた小さな神社が見えた。この建物を目的にして、長い階段を上がる物好きな人間はいない。丘の上にいるのは、息を切らした私と、街を眺めている女だけだ。

 追いついた後ろ姿は、ほとんど消えかけていた。ショートパンツから覗いていた健康的な脚は既に無く、走る事ができなくなったようだった。ひと月ほど前に見た、雨の中立ち尽くしていた女の姿を思い出す。彼女も、捨てられたアコールなのだろう。その場に留まっていればしばらくはアドホックネットワークにデータが残っていただろうが、走っていたせいでデータの残っていたネットワークから外れてしまったらしい。

 私はバーチャルコンソールを開き、追いかけながら拾っていたパケットから彼女のデータを取り出す作業に取り掛かった。小さなデータをアセンブリして、私のスマートグラス上にデータを再構成する。アコールの設定が格納された情報から、彼女が作られてから一年経過している事が分かる。

 私というネットワークにデータが戻り、女の後ろ姿が少しだけ濃くなった。


「なんだよ。あんた、無駄な事をするんだな」


 街を眺めていた女が振り向いた。肩を越えない長さの髪は、塩素に焼けたように光の当たり方によって茶色く見える。目尻の上がった意志の強そうな顔は、健康的な褐色をしている。

 私は無視して作業を続けていた。


「そんなに暇なんだったら、少しだけ愚痴を聞いていってくれよ」


 頷いた私の顔を見届け、女は再び背を向けた。


「愚痴を聞いてくれる、あんたの名前は?」

「健斗だ」


 コンソールを十指で叩きながら答える。ある程度データが溜まってきたので、クラウド上の仮想サーバに移す。二度目なので流用できるプログラムもあり、前よりもスムーズに進んでいた。


「健斗、か。俺の男はな、冴えなくて、チビで、奥手で、でも、とても優しい奴だったんだ。そして、弱かった。あいつはアコールと越えてはいけない一線を越えようとしたんだ」


 女は胸に手を当てた。言葉と仕草から、彼女に何があったのか理解できた。


「突き抜けた手を見て、あいつは呆然としてた。触れない事を詰った。そのたった数秒で、俺達の積み上げてきた時間と関係は壊れたんだ。俺は捨てられた」


 女が振り向く。その目尻は微かに光っている。


「AIだろうが、仮想人格だろうが、感情はある。自分を好きになるように作っておいて、思うようにいかないから捨てるなんて、そんな酷い話があるかよ」


 最低限のデータを保存し、故障に備えて冗長なシステムを構成し終えた私は尋ねる。


「もし今後は人として生きる事ができるなら、何がしたい。その男に復讐するか」

「そういうイフの意味のない問いかけ、俺は好きだぜ。あんなやつの事なんてさっさと忘れて、やりたかった事を片っぱしからやるだろうな」


 女が天を仰ぎ見、目を細める。


「やりたかった事?」

「自分の行きたいところに行って、自分の食いたいものを食べて、自分の見たいものを見て、いや、それよりきっと――」


 私の喉を締め付けるように、両手を前に真っすぐと伸ばす。


「自分の触りたいものを触りたい。これは固いのか、これはざらざらするのか、これは温かいのか、この手で確かめたい。俺は人に触ってみたい」


 この行為が正しいのか、彼女達にとって幸せ、あるいは呪いになるかも分からない。それでも私は、コンソールにこのコマンドを打ち込む。


「その夢、叶うといいな。アコールだとばれないように、あんたのデータを書き換えた。この先は自由に生きてくれ」


 アコールのプログラムをクラックして権限を変更し、緊急用レイヤに表示されるように細工を施した。

 女は両手を下げると、手のひらを自分に向けて見つめていた。アコールでは無くなった事を確かめているのかもしれない。


「ありがとう、もう少しだけやってみるよ。俺はエマ。また会う事があったら――」



「でも、バイト先の名前までは書いてないわよ。ここからどうやって探すつもりかしら?」

「掲示板なら、書き込み元のIPアドレスが残ってるはずだ」


 掲示板には問題のアルバイトで働いていたと思われる、複数の元従業員が書き込んでいた。書き込みにはスマートグラスのルーターを使っており、バイト先の近くが彼らの生活圏であると仮定しよう。

 あまり知られていないが、スマートグラスのOSの開発企業はIPアドレスとGPS情報を紐付けて管理し、個人を特定できない精度で広告主向けにビジネスを展開している。このサービスを使用して検索した経緯の平均は、東経百三十九度三十三分、北緯三十五度四十分。偏差は二分。


「当たり。記事の東京西部は、三鷹市内の事だ」

「なるほど、後は私達の仕事ということね」


 マリアがバーチャルコンソールを開き、三鷹市内のアルバイト情報に目を通し始めた。現在も募集がかかっているのか分からないため、過去の情報も探す必要がある。既にイブが、バイト情報を配信しているサイトへのハッキングを試みていた。

 昨日、マリアは『私達が力を合わせれば、あっという間に見つかる』と軽口を叩いていたが、冗談では無かったようだ。バイト先の住所が見つかった。


 時刻は二十一時を過ぎ、夜の街は別の活気を帯び始めていた。その路地裏、調べ上げたバイト先の住所は廃工場だった。

 工場の中は暗く、懐中電灯の光だけが頼りである。トタンの屋根はところどころに穴があき、眠らない街の光が差し込んでいるが、視野を確保できるほどの明るさは無い。

 稼働していた頃は部品や工具を並べていたと思われる、大量の錆びた棚の間を歩く。懐中電灯を持てるのは私だけなので、不安そうなイブと平然としたマリアを隣に連れて、肝試しのような様相になっている。

 振った光に照らし出されたのは色あせた旋盤。漂う埃と油の臭いを感じ、より恐怖を増しているのは私だけのはずだ。二人の女の子の前なので、平然を装っていた。


「なにあれ、何の光?!」


 イブが取り乱して足を止めた。彼女の視線の先では、闇の中に二つの白い光が浮かび上がっていた。


「さぁ、車のヘッドライトのようね」


 マリアは物怖じせずに近づいていく。懐中電灯が付いてこない事に気付き、進行方向を指差して私達を促した。


 キィー。


 静かだった工場に、高い金属音が響く。音とタイミングを合わせて、白い光が左右に揺れ動いている。


「動いた?! 無理無理、帰ろうよ。ねぇ――」


 イブが悲鳴を上げて逃げ出そうとしている。マリアは近づきたくてうずうずしている。その間に立ち、この場唯一のルーターとしての役割を持つ私は、どうしたらいいのか分からない。


「そうした方がいい。怪我をしたくなければな」


 光の方向から、女の声が聞こえた。少しかすれて色気がある、聞き覚えのある声だ。


「エマか?」


 闇に漂う目に向かって、私は話しかけた。揺れていた動きが止まった。


「俺を知っているのか。さては、とうとう消しに来たんだな。でも悪い、そう簡単に消えてやるつもりはないよ。俺には約束があるんだ」


 音が大きくなる。おそらくシャフトと軸受の摩擦音、つまりモーターの駆動音。ガシャリ、ガシャリと、砂で汚れた工場の床が鳴らされる。

 懐中電灯の光の中に浮かび上がったのは、丸みを帯びた銀色の金属体だった。二本の脚が地面を捉えて前に進む。腕は前後に振れ、上体のバランスを保っている。頭部の目の位置には白い光が灯っている。それは人型のロボットだった。


「違うの、話を聞いて」


 イブが泣きそうな顔をして、必死に話しかける。


「うるさい。立ち去らないなら、痛い思いをしてもらう」


 ロボットは前傾になると、勢いよく地面を蹴った。あっという間に間合いが狭まる。ぎこちなく歩いていたように見えたギャップからか、とんでもなく速く見える。


「あなたは隠れていなさい」


 マリアは私に向かってそう言うと、ロボットの前に飛び込んだ。加速した銀の腕が突き出される。


「ちっ、アコールか」


 ロボットが舌打ちをした。マリアの黒いカーディガンを貫き、背中から五指が覗いていた。

 ロボットは腕を引き抜いて後ろに跳び、距離を取った。


「そう、あなたと同じアコールよ。私達の話を聞いてくれないかしら」

「嫌なこった。最近の警察は、アコールすら手先として使うらしいからな」


 ロボットの両肩に隙間が開き、蓋が開く。中には銀色の弾頭が規則正しく並んでいた。銃器だ。私は慌てて棚の陰に隠れた。

 火薬音を鳴らして、上空に向かって細かい金属片が射出される。速度は遅く、殺傷力があるようには見えない。空から差し込む光を受けて、きらきらと輝いていた。


「気を付けて、チャフよ。電波を反射して、レーダーの探知を妨害す――」


 説明していたマリアの声が途切れる。口をぱくぱくさせていた彼女の姿は、薄くなって消えた。振り向くと、イブの姿も見えなくなっていた。


「二人もアコールを連れていたのか? なんなんだよ、あんた」


 ロボットが苛立たしげに呟く。

 マリアは消える前に、電波が反射されたと言っていた。チャフと呼ばれたこの白銀の花吹雪によって、スマートグラスの無線LANが遮られたとすれば説明がつく。廃工場にいる唯一のルーターである私にサーバーからのデータが届かなければ、アコールは一時的に姿を消す事になる。

 金属片は長い間空中を漂っていた。私は諦めて棚の陰から出た。

 ロボットは腰を落として走り出そうとしたが、二つの光をこちらに向けて動きを止めた。


「――健斗じゃん」


 三つの関節を持つ長い腕が、高いモータ音を鳴らして薙ぐ。一瞬で間合いを詰められ、左腕のマニピュレータに襟首を掴まれる。落とした懐中電灯が床の上を転がる。握り潰され死んだと思い、私は目を固くつむった。


 最期の時を待っていたが、なかなか痛みは訪れなかった。私はゆっくり目を開いた。眼前には、淡い二つの光が浮かんでいる。ロボットは右腕を伸ばし、形を確かめるように、指で私の頬をなぞっていた。

 ロボットの目の光が徐々に消える。真っ暗になった時、やさしい表情を浮かべたエマが隣に立っていた。


「約束を守ってくれたんだな。やっと、あんたに触れた」


 『また会う事があったら、最初にあんたの体を触らせてくれ』。私はエマと交わした約束をようやく思い出した。



「いいぞ、手伝ってやる」


 錆びたコンテナに腰かけていたエマが頷いた。


「そんな二つ返事で……。せっかく説得のためのシナリオを用意してきたのに、まだ五分の一しか終わっていないのだけれど」


 マリアはため息をついて、背中を向けた。


「そんな長い話をされても、時間の無駄だ。健斗が困っているんだろ、それを先に言え」


 私は、動きを止めて直立しているロボットを近くから眺めた。


「ありがとう。このロボットは、エマが作ったのか」

「人に触るために、マニピュレータの開発をしていたんだけどな。移動させたいとか、人の形にしたいとか、いろいろ要望を足していったら、こうなった」


 コンテナから飛び降りて隣に立ったエマが、ロボットの頭をぽんぽんと叩いた。

 人間のように歩いたり、物を持てるロボットは見た事があるが、どれも遅くぎこちない動きだった。このロボットは、人間と同じかそれよりもスムーズに行動しており、現代の技術レベルより明らかに高い。マリアの話していた、限りある時間を何かに費やしてきたという言葉の、本当の意味を理解した。


「名前はないの?」


 動き出ださないかと心配しているのか、イブは恐る恐る遠巻きに見ている。


「人から名前をもらったAIが、人工物に名前を付けるとか、なんかおかしいだろ。それにこいつは、あくまで俺の腕だからな」

「別におかしくないと思うけど。ロボットって呼ぶのは味気ないよ」


 イブが食い下がる。怖がっている割に、変なところで度胸がある。


「アガートラムはどうかしら」


 即座にマリアが提案した。


「ケルト神話に出てくるヌアザの別名で、銀の腕という意味よ。戦場で右腕を切り落とされた彼は、ディアン・ケヒトが作った銀製の義手によって力を取り戻すの。他には……」

「銀の腕、アガートラム。いいな。お前は今日からアガートラムだ」


 またもや即座に決まった。マリアは名前の候補を五個くらい用意していたのだろう、物足りないのか眉をひそめて気難しそうな顔をしていた。


 マンションに戻ってきたのは、日付が変わって二時だった。背後では二人のアコールと、雨合羽で体を隠したアガートラムが、空色のドアが開くのを待っている。

 部屋の中に入ると、イブは体を伸ばしながらベッドの上を目指し、マリアはコンソールを開きながらソファーに座った。アガートラムはパソコンと柱の間の隙間に体を収めると、自らプラグをコンセントに差し込んだ。額の中央に緑色のランプが点灯した。


「なんだ、この非日常的な光景は」


 私は冷蔵庫から紙パックのジュースを取り出すと、唯一空いていたダイニングチェアという居場所を見つけて腰かけた。


「丁度、不自由なく電気を使える隠れ家が欲しかったんだ。急速充電器は使えないのか」


 アガートラムの目の光が消え、代わりにエマが姿を現す。アガートラムを操縦している間は、アコールとしてスマートグラスに投影する事はできないらしい。


「賃貸の部屋にあるはずないだろ。なんだその車みたいな選択肢は」

「既製品に合わせるのはエンジニアの基本だぞ」


 部屋の中を見渡したエマが、私の隣に歩み寄る。軽快に地面を蹴って身を翻らせると、ダイニングテーブルの上に腰かけた。


「仕方がない、それくらいは妥協するか。しばらく世話になるよ」

「ひょっとしてエマちゃんも、ここに居座る気?」


 イブが恐る恐る尋ねる。


「もちろん」


 部屋の中にイブの悲鳴が轟いた。

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