1.5 僕らの決意

「なあ、滝藤さん、あんた、そいつが憎いんよな?」

「はい」

「抹殺してやろうか?」

「はい?」

滝藤は突然の発言に、何を言ってるのこの人?と驚きを隠せない。


「本当に人を殺すんじゃないんだよ。僕らがやろうとしているのは今の法律では裁くことのできない、あるいは警察が取り扱ってくれそうになさそうな、そんなやつらを僕らの手でことなんだ。」

「僕らはみんな社会人だ。しかし、企業で上司や先輩の伺いをたてて、評価されないと上にあがっていくことができない企業は今の日本には多い。それがすべてダメというわけではない。が、そんな制度のスキをついて、のさばる輩が多すぎる。」

「そんなやつらに指示されて行う業務を僕らは好まない。」

「企業の中だけじゃない。たとえ、警察の中の人間であっても、不正行為から不当な利益を得ているものがのさばる世界なんてクソくらえだ。政治家だろうと、お坊さんだろうと、医者だろうとな。」

 男性達は各々の考えを述べ始めた。


「さっき、僕らは社会人といったけど、それであるとともに、ハッカーだ。各々が持つスキルはいろんな方面に長けている。僕らはこのスキルをもって、悪を告発する。衛りのセキュリティではなく、攻めのセキュリティなんだ。」

「決して、標的以外の人々には迷惑をかけない。そうやって、僕らが裁いていくんだ。」

すると、関西人は鞄から一冊の本を取り出した。

「うちらがやろうとしてるんは、そんな悪い大人達を相手に、サイバー攻撃をしかけるんや。端からみれば、俺たちの行為も悪なのかもしれないが、本当に悪いことをしているのは誰なんやろな?」


 滝藤はタイトルを見て小さい頃にみた映画の記憶を思い出した。中学生が現代の管理社会、管理教育に対して叛乱を起こす映画だ。日本大学全学共闘会議をまねた解放区と定めて、無人化した工場と敷地を占拠し、現代のひどく厄介な大人社会における学校教師や親といった大人たちを一泡吹かせるために、あの手この手の退治方法を実行していく。映画の中の中学生達はずっと目がキラキラしている。


「ほんで、あんた、ネットワークエンジニアでインシデントハンドラーって言ったやんか?どうする?俺らと一緒にそいつを、んんっ!か?」

言い直された部分を強調するように関西人は咳払いして言った。


滝藤は涙を両手の甲で拭って、目を光らせた。

「やりたい。私に出来ることがあるのなら。」

そう聞いて、テーブルにつく全員の口角が上がった。

「ほな、決まりな。あんたもうちらの仲間やで。やったろうやないか!」

そういって、関西人はテーブルの中央をべちーん!と叩いてみせた。あとから手首を振っているのをみて、滝藤は痛いんだ、と心の中で呟く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る