第8話「拝啓、僕はあなたを守ります」

「……、これって、どうやって入ればいいんだ?」

 今、四詰んばの状態、立つ力も残ってない。だけど、ドアノブは背丈以上のところにある。

 とりあえず、頭でドアを押してやる。案の定、ビクともしない。むしろ、当てた頭が痛い。やはり、ドアノブでしか開けることが出来ないのだろうか。

 僕の顔色が真っ青になりながら、ドアノブを見つめるしかなかった。


 それでも、諦めずに頭からドアをコツコツと叩く。反応がない。そもそも聞こえているんだろうか?

 ああ、パンの香ばしい匂いが鼻につく。僕はお腹を押さえ、下唇を噛んだ。

「絶対、サックとフアッとしているだろうな~。アミュさん、気づいてくれよ……」


 頭でドアをコンコンと叩き続ける。もうパンの事しか考えられない一心だった。


 すると、ドアが開き、思いっきり、頭をぶつける。

「~~~~~~~」

 勢いよく当たったため、かなり痛かった。血が出たのかと思って、手で触ったぐらいだ。


 ドアの中から聞こえてきたのは、美少女のような、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「え?ドラコ?なんで外に居るの?」

 ベットと僕をきょろきょろと何度も見る。もしかして、今まで居なかったことも気づいていなかったのだろうか。これも彼女の性格だろうか、少し悲しくもなってくる。

 僕は顔を下にうつむくと、額にはひんやりと冷たい感覚を覚えた。目の前には玄関の床、レンガが目に映っているわけで。

 誰にでも知らない間に僕は、九死に一生を体験していたわけだ。恐怖で手から出る汗でべっちょりだ。


「…………」

 沈黙が続く、飼い主の立場からしてみても、勝手に外に出て勝手に死にかけている。どう考えてみても激高されるに違いない。僕が飼い主の立場だったらそうだ。自分の気持ちを考えず、感情で怒るだろう。厳しい口調で、次は勝手な行動は許さないってな。


 僕は、目を☓(ばつてん)のようにつぶりながら、覚悟した。

 すると、アミュは僕の頭を一撫でする。そして、天使のような優しい声で、

「ドラコ、よく頑張ったね。君は凄い子だ。さあ、朝ご飯にしよう。焼きたての美味しいパンをお食べ」

 床につけていた額を上にあげると、ニコリと微笑む、アミュの姿が見えた。

 まるで、女神だった妹を見たかのような、目の前に天使が見たかのような、前世の人間界にはあまり感じることの出来なかった優しさが、僕の胸に突き刺さった。

ぽとりと一粒の涙を浮かべながら、僕はアミュさんの後ろ姿を見つめていた。


______________________



「僕はアミュさんを守ります」

 僕はお皿に並べられているパンをペロリと平らげ、横に置いてあったお水を勢いよく飲んだ後に言った。


「ん?おかわり?仕方ないわね。余ったパンがあと少しあるから、これで我慢して頂戴ね」

 アミュは僕のお皿にパンを二個置いた。

 そうではないのだけど……、やっぱり伝わってない。だけど、パンは食べさして貰うぜ。美味しいからな。

 二個あったパンをペロリと食べると、アミュが目線を感じてしまった。


「もう、食いしん坊さんね、だけど美味しそうに食べるわね。作った甲斐があるわ」

 アミュが僕の頭を撫でると、ニコリと微笑んでくる。


 この笑顔にやられたんだ。この笑顔に。これが恋なのか、何なのか分からないのだけど、あなた様を守りたい、そう目的を持つことが出来たのは、初めてかもしれない。それに人間だった前世にも目的、希望を持つことがなかったかもしれない。

 そのあたりは、自由じゃなかったよな、前世って。何かしらの人の目もあったし。


 僕は、顔を上げてアミュを見つめた。

「よく聞いてください。アミュさん!僕はあなたを……、あ、くすぐったい、あ、止めて、ああ」


アミュは僕の首筋を触ってくる。僕は真剣なのに、目を見てください。この真剣な目を。

なんだか笑みが出てくる。なんでだろう。首筋を触られているだけなのに、ああ。


「やっぱり、ドラコはここが弱点なんだね。ウフフ、可愛い」

撫で続けるアミュ、僕は立っていることが出来なくなった。そしてその場にパタンと寝転がってしまった。


「あ、ごめんごめん。やり過ぎちゃった。ふふ、続きはまた今度ね」


「え?もう終わりですかい?アミュさん、もう少しお腹を摩って欲しいんですけど」


 僕は真顔になって答えた。まあ、伝わってないのだろうと思いながら、下を向いてため息を吐きそうになった。


「そうね。気が向いたら、お腹摩ってあげる。ね、ドラコ、今日は我慢。が、ま、ん」


「え?伝わった?ねえ?アミュさん!」


 アミュは奥にある自分の部屋に戻っていった。伝わってない?と疑問が残るのだけど、期待を胸に、グッと拳を握った。

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