土曜日のことだった。テストが終わっているので、土曜日は部活があった。テストが終わったその日から部活は始まっていたのだが、そこではなかなか別府えにしと話す機会はなかった。部活のメニューをこなす際に私語は禁止で、黙々と練習メニューをこなすために走っていたのだ。休憩中も休むことに精一杯で話しかける余裕もなかった。


 帰りも家の方向が違うため、一緒に帰ることもできずにいた。クラス内で話しかければよかったのだが、イケメンバカと私と別府えにしの謎の三角関係のうわさが流れているのを知っているので、うかつに声をかけづらかったのだ。


 そうこうしているうちに、土曜日の部活まで話す機会がなかったというわけだ。土曜日の練習は平日の練習と比べて、部活の時間が長いために、休憩時間も平日より長めにとっている。




 休日の練習は、近くの運動公園のグラウンドを使う。休憩は、荷物などが置かれている倉庫の日陰で休むことになっていた。


「武田さんは、今回のテストどうだった。私はだめだった。もっと自分はできると思っていたのだけど、この結果だと、私はただのバカということだわ。」


 休憩中に私から話しかけようと思っていたら。彼女から話しかけてきた。


「ええと、もしかして、別府さんは見直しとかしなかったから、悪かったのかもしれないよ。ほら、問題を解き終わってすぐに裏に絵を描いていたでしょう。」


 彼女が今回のテストの成績が悪かったというので、つい思ったことが口から出てしまった。


「あら、見ていたの。確かにそれかもしれないわね。私は悪かったけど、別に私のことはいいの。武田さんのテスト結果を知りたいわ。」


「私は……。」


 なんて答えようか迷っていると、彼女は思いもよらない言葉を投げつけてきた。


「まあ、よかったんでしょうね。だって、テストが返却された時の顔が結構うれしそうだったから。」


 私が彼女を見ていたように、彼女も私を観察していたようだ。お互いに気になる人物ということか。気を付けて行動をしないと、彼女に足元をすくわれてしまうかもしれない。



「それはそうと、としや君の結果はどうだったのか気になるでしょう。」


 あのイケメンバカの話題を振ってきたので、顔をしかめると、別府えにしに笑われてしまった。


「よほど、彼のことが嫌いみたいね。でも、彼、すごい勉強熱心だったわよ。だから、武田さんも今度機会があったら、ほめてあげるといいわ。としや君もきっとあなたに褒められたらうれしいと思うわ。」


 名前呼びになっているのが気になった。いつの間にそんな親しくなっているのか。テスト期間中に一緒に勉強した時にしかありえない。しかし、どう見ても真面目そうに見える別府さんが、あのイケメンバカを好きになることはない。私の偏見だが、断言できたので、名前呼びに違和感を感じた。



 その違和感に気付くことができなかった私は後々後悔することになるのだった。そもそも、別府えにしがどうしてわざわざ、イケメンバカの勉強を見たいと言い出したのか、その理由に気付くべきだった。



「休憩終わり。さあ、残りの時間もしっかりやっていくよ。」


 顧問の休憩終了の合図を聞き、私たちはまた練習を再開した。そして、そのまま、部活は終わり、いつもどおりの週末を過ごしたのだった。

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