第25話


 ……ドクン……ドクン……ドクン……


 心臓の音が耳へと届く。だけどそれ以外はとても静かだ。当然か。だって二人とも、さっきからずっと黙っているのだから。


「…………………………」

「…………………………」


 色々あって木葉から好きだと言われ、私も好きだと伝えた。それから二人ともずっとこの調子だ。だって気持ちの整理が全然ついていない。

 きっと木葉もそうなのだろう。こもった熱を冷ますように、二人してただ吹き抜ける風に当たっている。だけどずっとこのままというわけにもいかなかった。


「…で、結局これからどうしようか?」

 先に沈黙を破ったのは私だった。呟くくらいの小さな声だったけど、ちゃんと木葉には届いたみたいだ。


「どうするって……だから、もう会わない以外にないだろ」

「だからそれは嫌だって言ってるでしょ」

 少し前に交わしたやり取りとほとんど同じことを繰り返す。ただしお互いにさっきのような勢いは消えていた。

 落ち着いたというべきか、一連の告白まがいの出来事で気力を使い果たしているのかもしれない。その分木葉は冷静に、諭すように言う。


「なら志保は、生気を失っても、命が縮むような事になっても良いって思ってる?」

「それは…嫌」


「それとも、これからは会う回数を減らして、会っても今まで通り話すだけで、それで良いって本当に思ってる?」

「………………嫌」


 あれも嫌、これも嫌、これじゃさっきから私の行っている事はただのワガママだ。だけど仕方ないじゃない。

 だって木葉が私のことを好きって言ってくれたんだ。ずっと言って欲しいと願っていた言葉を言ってくれたんだ。なのにその直後に、もう会えないだの、会っても言葉を交わす以上はできないだの言われても納得できるわけが無い。むしろ今まで以上に近づきたいと思っているのに。


「でも、実際にその中から選ぶしかないだろ」

 それは、反論できない。だから困りながら話をする木葉に対して拗ねた顔を向ける。


「……木葉の意地悪」

 木葉はますます困った顔をするけど、私はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 木葉の行っている事は分かる。たとえどんなに嫌でも、私達は先に挙げた中から答えを選ばなくてはならない。だけど私はまだ、選ぶ段階にすら立てていなかった。

 だってまだ、ちゃんと木葉から聞いていないことがある。


「ねえ木葉。じゃあ、あんたは嫌じゃないの?」

「俺だって嫌に決まってるだろ。だけど―――」

「だけどじゃない!」

 言いかけた言葉を、声を上げて打ち消した。どうせこの後また、こうするしかないんだってあれこれ諭すように言うんでしょ。そんなのは分かってる。私が聞きたいのは、そういう冷静に考えた理屈じゃなかった。


「私、まだ木葉の本音聞いてない。木葉がこの状況をどう思ってるのか、ちゃんと聞いてない!」

 木葉は私の言っていることが分からないのか、心底困惑した様子だった。


「なんだよそれ。そんなの何度も言ってきただろ」

「それって、嫌だけど仕方がないってやつ?そんな諦め混じりの言葉じゃない!」

 諦め混じり。この言い方は木葉も気に入らなかったようで、明らかにムッとする。

「そんな言い方ないだろ。他に方法があるなら、俺だってそんなこと言ったりしない!」

「それよ!」

 声を上げた木葉を、私はビシッと指さした。


「方法がどうとか、どんな答えを出さなきゃいけないと、そんなの全部忘れてよ」

「はぁ?」

 木葉はますます訳が分からなくなっているようだ。私はそんな木葉を覗き込むように見つめながら、もう一度聞いた。


「あんたは、嫌じゃないの?ちゃんと納得できるの?」

「それは……」

 木葉は何でそんな事をと思っているかもしれない。だけど私にとってはこれ何よりも重要だった。

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