第23話

「…………」

 木葉はさっきから顔を伏せて黙り込んだままだ。

 相手がそんなだから、何だか私も声を出すのをためらい、沈黙が続く。いったいどうしたというのだろう。

 戸惑っていたところでようやく木葉の口が動いた。


「……なんだよ、それ」

「え?」

 ポツリと放たれた言葉の意味が分からなくて、思わず聞き返す。だけど木葉はそれには答えない。かわりにサッと手を伸ばすと私の肩を掴み、そのまま自分の方へと引き寄せた。


「ちょ…ちょっと」

 いきなり何をするんだ。これじゃまるで抱きしめられてるみたいじゃないか。

 いや、みたいじゃなくて、まさに私は抱きしめられていた。始めこそ強引だったその手つきも今は優しく、間近に迫ったどこか愁いを帯びた表情にドキッとする。

 こんなことをされたら、せっかく抑えようとした感情が溢れてしまう。見る見るうちに顔が火照ってきて、思わず背中に手を回したくなる。

 もしやそれが作戦なの?こうすることで、無理やり私の気持ちを暴こうっていうの?


 必死で理性を保ちながら、何とかその手から逃れようとする。だけどその時、急に視界が揺れ、脱力感が襲ってきた。どうやら木葉に長い間触れていたせいで少し生気が失われたようだ。


「――っ」

 私の様子が変わったのを見て、木葉は慌てて掴んでいた手を伸ばして距離を作る。同時に、生気が失われていく感覚も消えた。

 そして木葉は、力なくガックリと項垂れていた。


「………ごめん」

 表情は見えないけど、その声にはハッキリとした後悔の念が含まれ、肩は小さく震えている。

「ううん。これくらい何でも無いって」

 フラついた体を立て直しながら言う。実際これくらいならさっき鹿王に吸い取られたのと比べると大したことは無い。何よりこんな木葉を見て攻める気なんて起きない。

 だけど木葉は尚も顔歩伏せたまま、ボソボソと続けた。


「でも、これからも一緒にいたら、俺はきっとまた同じようなことをするよ。そりゃ志保は今まで通りでいいかもしれないけど、俺には無理なんだよ」

 いつの間にかその声はしだいに熱を帯びてきていた。方の震えは止まり、だらんと下げられていたはずの手は、今は強く握られてる。


 そして、叫ぶように言った。


「好きな奴のすぐそばにいて、もうすぐ会えなくなると分かっていて、なのに何もできないなんてどんな拷問だよ!」


 え……

 木葉の手が私から離れ、その動きが止まる。同時に私の思考も止まった。


 もしかして木葉、今私のこと好きって言った?

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