花救人(キュート)~ひまわりパワーで浄化します!~

苑田愛結

第1話 ひまわりが咲くとき…妖精現る

「はぁ……今日も暑いなぁ」


 片桐(かたぎり)陽(ひ)真(ま)は、青空を見上げた。

 今日は七月七日、七夕だ。そして陽真の十三歳の誕生日でもある。

 今日は土曜日で学校も休み。

 いつものとおりここにやってきたのだが、梅雨も明けて気温も高め。半袖でもじっとりと汗ばんでくる。


 陽真は、草ぼうぼうの中に傾いて立っている鳥居を見つめた。

 いや、正しくは鳥居の陰になっているひまわりを見つめた。

 ひまわりは上を向いて咲くはずなのに、このひまわりはずっと下を向いている。

 陽真がそのひまわりに気づいた、そのときからずっとだ。


「花は咲かないとね」


 せっかく花に生まれたのなら、咲かないと。

 陽真はそう思いをこめて、いままで一週間、世話をしてきた。

 持っていたスマホのネット検索で調べたことだけれど、「咲かない花」にいいことをしてきた。

 今日もそれをして、仕上げに持ってきていた専用のペットボトルの水をちょろちょろと慎重にあげていく。


 乾いていた土に、すうっと水がしみこんでいった。

 まるで「おいしい」ってごくごく飲み干しているみたいだ。


「きれいに咲いてね」


 今日もそうひまわりにささやいて、さあ帰ろうとした、そのときだった。


 パァッとあたり一面、真っ白な光に包まれた。


「きゃっ!? な、なに!?」


 陽真は驚き、そのあまりのまぶしさに目をつぶってしまう。

 ひらひらひら、となにかが舞い踊る音がした。

 そう、花びらかなにかが──。

 陽真がそっと目を開けてみると、もうあたりはいつもの草ぼうぼうの鳥居で、光が特別強いわけではなかった。


「あ、れ……?」


 ただ、違うことがひとつだけ。


「ひまわり、咲いてる……」


 そう。下を向いて咲かないでいた、一輪のひまわり。

 陽真が一週間ずっと世話をし続けていたひまわりが、咲いていたのだ。ちゃんと、上を──太陽のほうを向いて。


「ついさっきまで下を向いてたのに……」


 ひまわりって、こんなに早く咲くものなの?

 お世話していたひまわりが咲いてくれてうれしい、という気持ちよりも、どうしても疑問のほうが湧き出してしまう。

 まじまじとそのひまわりを見ていた陽真は、なにかの影がその後ろに見えた気がして、「ん?」と目を擦った。

 パタパタパタ……とひまわりの陰から、蝶が飛び立つ。


「なんだ、蝶だったんだ」


 蜂だったらソッコーで逃げようと思っていた。

 だけど、ずいぶん大きな蝶だ。水色の羽はいやに大きいし、光に透けている。


「……顔もある……?」


 よくよく見ると、その蝶には人間のようにちゃんと顔も身体もあって……。


「妖精みたい……」


 よく童話の挿絵で見る、妖精のようだ。

 なんて思っていると、いつのまにか陽真のすぐ目の前まできていたその「蝶」が、突然しゃべった。


「きゃ~~~! ついにっ! ついにこの時がきたわーっ! 『花救人(キュート)』が誕生したわーっ!」


 語尾に音符マークやハートマークがついていそうなほど、上機嫌に。

 陽真は硬直した。


「……わたし、疲れてるのかな」

「ちょっとちょっと! 幻聴とか幻覚じゃないですからね!? これはちゃんと現実よ! わたしがあなたに話しかけているんです!」


 思わず現実逃避しかけたところを、妖精がパタパタと羽をはばたかせて妨害した。

 仕方なく、陽真は恐る恐る尋ねてみる。


「あの……あなたは妖精、ですか?」


 妖精は胸を張って即答した。


「わたしは花の妖精、シルフィよ。これからよろしくね!」


 ……やっぱり現実逃避に陥りたくなる陽真だった。


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