ひなかご 7

 ユゼスの町の、静かな岡のうえに、懐かしい家族たちが眠っていた。暗くならないうちに、お墓参りをしようとカミーユは思っていた。

 昼食の席に、シリルは同席していた。いまだに帰ろうとしないかれを避けるためにも、外へでる口実が必要だった。

 カミーユは庭へ出ると、コレット婆さんの花壇へ歩みよった。手にした鋏で、つつましやかに咲くフランスギクを摘む。

「姉さん?」

 アンリエットが窓から声をかけた。

「花瓶を用意しようか」

「いいわ。お墓にそなえるの」

 アンリエットが庭へ出てきた。

「自分の田舎はすこし怖いわ」

 フランスギクの花束をととのえて、カミーユははにかむように笑った。

「思いだすことが多すぎるから」

「白い花が嫌いだって言ったの、姉さんだった?」

「白くて大きな花が嫌いなの。ユリみたいに、ぬめるような匂いのする花が」

「ラヴェンダーは?」

「好きよ」

「私はヘリオトロープが好き」

 アンリエットは花壇に屈みこんで蕾をつけたラヴェンダーに鼻を近づけた。

「ヘリオトロープは育てにくいのよ。このへんは乾燥しているから」

「ラヴェンダーで我慢しなさい」

「ラヴェンダーはきらい」

「昔好きだったんじゃないの?」

「ラヴェンダーが好きだったのはロザリーよ」

 アンリエットの瞳に翳がさす。カミーユは見とがめるように眉をひそめて、

「まだ立ち直ってないの?」

「私が変わっただけよ」

「ロザリーみたいに?」

「姉さんにはそう見えるの?」

 アンリエットは意外そうだった。光のつよい、灰色の瞳に、カミーユは気圧された。そうして、瞳はふいに力をうしない、横へそれた。

「姉さんにもそう見えるのね」

「アンリエット?」

 弱々しいため息が、アンリエットの唇から洩れた。唇が歪んで、深い皺を刻む。

「夢をみるの。毎日、夢のなかで、ロザリーに会うわ」

 とおい山の輪郭をたどるような目で、アンリエットは姉をみていた。

「でも一度も話したことはないの。どこで会っても、いっしょの部屋にいても、私はロザリーと話すことはできない」

「どうして?」

「わからない。でも、いつもそうなの。ロザリーを追いかけて広場に出ても、広場にロザリーはいない。たとえそこにいても、近づくことができない。そういう夢を見るわ」

 アンリエットの苦しみは、家族が考えているよりもずっと深いのかもしれない。カミーユは沈痛な面持ちで目を伏せた。そうして、自分がよく見る左手の夢を思い出す。

「私もくりかえし見る夢があるわ。戦争の夢」

「空襲の?」

「そう」

 アンリエットは同情するようにカミーユを見た。カミーユは、アンリエットの地の表情は、彼女の妹によく似ていると思った。

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