第四投 魔法じゃないよ、魔術だよ

「立てますか?」

 

 銀髪の少女は私の袖をツンツン引っ張った。


「ごめんね。さっきのオーク?のせいでまだ世界がぐわんぐわんしてて、立てそうにないの」


 陽光に照らされた顔を初めてよく見たら……え? え? え?

 

 潤って透き通ったブルーの瞳。

 まつ毛の色素が薄いせいか、一層青い。

 鼻筋がスッと自然に通ってて、桜色の唇に目が自然と誘導される。

 陶器肌ってこういうのを言うのかな。

 太陽の光が当たってるとはいえ、し、白すぎる。

 こんな美少女があの巨大なオークを!?



「ボ……ボクの顔に何か付いてますか?」



 !!?

 

 

 ぼく? ぼく? ぼく

 

 

 ぼくぅーーーーーっ!?

 

 

 え、ちょちょちょっと待って。男? 少年?

 いやいやいや、この顔はどう見ても女の子でしょ。

 胸は……まだ少女だからボインではないか。

 えー、どないしよ! ボディラインから判断付かない。

 っていうか少女だ! 女の子だよ、明らかに。

 

 分かった! これがボクっ娘だ!

 

 焦ったー、初めてお目にかかった。

 いえ、正確には学校にも一人称が『僕』って女の子がいたけども。

 やっぱりちょっと違和感の残るボクっ娘だったの。

 アニメだと大丈夫なのにね。

 

 ポン! 理解しました。

 リアルの女の子が『僕』を使うには、とてつもなく高いハードルがあったと。

  

 『女の子+僕=可愛い』の方程式が成り立つ条件、それは……

 

 

 !!

 

 

 私は反射的に脳内トレースを開始した。

 心を撃ち抜かれたら、描かずにはいられないの。

 あとでスケッチブックに描き起こすために、脳に刻み込むんだ~。

 

 髪は、セミロングのシルバーブレンド。

 アシンメトリーになってるんだ?おしゃれ~。

 服は……紙装甲の姫騎士服?

 超色白の肌に、あえて白い長めのマントを合わせるとは。

 "同色で揃えると無難"という逃げ道を行ったというよりは、むしろ攻めコーディネートだね。

 

 あれ? 顔も耳も真っ赤?

 ガン見しちゃったから?

 ごめんね、だってあなたすごく可愛いんだもん。

 私も腰が抜けたままようやるわ。

 

 何頭身くらいかなぁ。

 ちょっと計算させて! 40秒で支度するから。

 これは東洋の計算機だよパチパチパt……。




「あの……とりあえずここから離れましょう。この辺りは魔物が居て危ないんです。移動しながら話しませんか。向こうにパーティメンバーがいます」


 真っ赤な顔を隠すようにして散らばった荷物殆ど集めてくれてる。

 私だってヒキガエルよろしく這いつくばって荷物を集めようとしたよ。

 花も恥じらう16歳乙女ですけど、何か?

 

 あら? 草の陰にいるのは……猫ちゃんだ。

 ジーッとこっちを見てしっぽペンペンしてて可愛い。

 この子に付いてきたのかな。

 

 安心して下さい、猫殿。

 

 剣とかビームとか、エクスカリバーっぽいとか。

 色々気になるけど、の私は空気読みますよ?

 命の恩人に対して、いきなり根掘り葉掘り聞いたり致しません。キリッ。


 !!


 ちょまっ!! それは……!!


「へぇ、スケッチブックに絵を描いているんですか。どんな絵を……」

「ダッ、ダメェッ。世界の深淵を覗いてはダメェッ……」


 刹那の時間。

 スケッチブックを覗かれるといつも世界がスローモーションになる。 

 私の体の内側から得体の知れない何かが湧きあがり駆け巡る。

 体の主導権を奪われ、体が勝手に動き出し………………。

 

 気が付けば、私の手にはスケッチブック。

 そして覗こうとした人間は、私の足元に倒れているのだ。

 ほっぺに私の靴裏の跡を付けて……。


「だっ、大丈夫!?」


「……立て……」


「え!?」


「……たんですね……、ガクッ」


「あっ……」


 この美少女とて例外ではなかった。



 §



 猫ちゃんが大きなあくびを一つして、ため息と同時に白い目で私を見る。

 目は口程に物を言うのは万物共通なんだね。

 上半身を起こしたボクっ娘ちゃんが優しく言う。


「す、すみませんでした。大事なものを勝手に」


「違うの! 悪いのは私なの!」


 き、気まずい。命の恩人になんてことを……。

 

「ニ゛ャーッ!」


 そんなやり取りを続けてたら、猫ちゃんが突然叫んだ。

 花を踏んだら蜜を集めてた蜂に刺されたみたい。

 怒って蜂に猫パンチしてるんだけど、届かないし、蜂にまた刺されるし。

 可笑しくて、2人で顔見合わせて笑っちゃった。


「助けてくれてありがとう! 私は、エクシア・スコールズ。みんなは、『えくすこ』って呼ぶよ」


「ボクは、あ、アーシャ! ……です」


「アーシャちゃんね。あーちゃんって呼んでもいい?」


「あ、あーちゃん!? い、いいですよ……」


「私の事は『えくすこ』って呼んで。敬語はなしね」


「え、えくっ……?」


 蜂に刺された猫ちゃんが左目を腫らして帰ってきた。

 負けたんだ……なんだか落ち込んでる。


「おいで、カリバー君」


 あーちゃんは優しく声をかけると私とカリバー君を少し近くに寄せた。


「傷つき者に癒しあれ。憂いある者に安らぎあれ。リジェネレーション!」


 あーちゃんの腕輪が発光し、足元に薄っすらと魔法陣が浮かび上がる。

 ひっ! また魔法陣!?

 でもこっちの世界に飛ばされた時のとはちょっと違って、なんだか温かい光。


 魔法陣が時計回りに強く光り出して……。

 ……。

 ……。

 お、遅い。まだ半分行ってないよ。


 あーちゃんは手を組んだまま。

 こういうのって、魔法陣が出てきたら、ド派手なエフェクトで光がパッと溢れて効果発揮するんじゃないの?

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……、猫ちゃん手で痛いところさすってる。

 あの毛並みメインクーンっていうんだっけ?

 

 ……。

  

 光が全周に到達したところで魔法陣から、ド派手なエフェクトで光がパッと溢れた!

 うわぁきたぁっ。

 来るか来るかと構えてたから余計びっくりした。

 でもこの光、だんだん体の緊張を取ってくれてる気がする。

 温泉に入って血行が良くなったような感覚っていうのかな?

 何かが私の中を廻っているの。

 何かは解らないけど、何かがっていうのは解るそんな感じ。


「これで少しづつ体の調子も良くなりま……なるよ。最初のうちは肩貸すから掴まって? お……おねぇちゃん」

 

 お、おねぇちゃん!? 一人っ子の私が憧れてた甘美な響きを真っ赤な顔して選択して来おったわ!


「ありがとう。それじゃ遠慮なく、肩借りるね」


 ゆっくり、一歩一歩。水場を避けて移動し始めた。




 

「ところで、この猫ちゃんは?」


「あ、その子はカリバー君。一応妖精らしいよ?」


 それって、猫型妖精ってこと?

 あ、あぁ、そういえば猫の妖精はケット・シーって言うんだっけ?

 やっぱりこの世界には妖精がいるのね。

 それにカリバー君のカリバーって、やっぱりエクスカリバーの事なのかな?


「それにさっきのは魔法なの?」


「ま、魔術だよ、おねぇちゃん。 魔術は魔法と違って、EXCエクスコを燃やして魔術具ASICと簡単な呪文で発動させるんだ」

 

 今なんて?

 魔術? 魔法? 魔術具?

 あぁ、もう! 『ま』が多い!

  

 常識人がどうとかいう設定は飛んでった。

 いや、常識人は恩人を蹴り倒したりしないよね……。

 これはもう、あーちゃんを質問攻めにするしかない。

 ねっ? カリバー君。


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