第10話 僕、奴隷にご褒美をやる

 結果から言えば、僕の手元に残ったのは心臓だけだった。

 なんとあの馬車、アルクメネの町長さんが乗っていたらしい。血塗れの僕に礼を言ってのけ、首を収めた革袋を平然と受け取った彼は、すぐにまた折り返してアルクメネへと馬車で急行していった。


 なんでも、あの襲撃者連中は傭兵崩れで、隣国から流入してきた様だとかなんとか教えてくれたが、まぁ、僕にとっては獲物が増えるだけの話である。あまり興味はない。


 魂の方も脳では無く心臓に押し込めておいたので、問題なく収穫できている訳だし。


 おそらく町の騎士団が後で検分に来るだろうから、死体を残していかないといけないのが惜しいが。


「ま、カラスやトンビが盛大に集ってるから心臓ぐらい盗んでもバレないよねきっと」

「野犬が来てたし多分大丈夫だよ、旦那さん。……でもびっくりしたわね。傭兵崩れだなんて。ねえご主人様、なんか変じゃない?」

「……確かに。傭兵が依頼もなく貴族なんてハイリスクな獲物を狙うかな?」


 貴族なんて無計画に襲ったところで金を得るより先に騎士団に叩き潰されるのがオチだろう。……であれば、普通に考えてあれは誰かが依頼した結果と考えるべきだが……。


「……ま、良いや。今は心臓だ」


 進行をロバ君に任せ、幌の中に入った僕とオーティスは水の魔道具でさっと血抜きをした心臓を、よく研いだダガーでスライスし、塩と胡麻油を軽く振って生で頂いている。獣臭さはあるが歯触りがよく実に美味。ついでに僕は魂を喰らってかなり満足している。


 自力で騎馬吶喊並みの攻撃をしてくる僕が相手であったが故に、後手に回った傭兵たちだが、彼らの実力は低くはない。魂を喰らえば盗賊などより余程力が充足するのを感じる。


 そうして、僕は6人の魂を喰らい、無垢な魂を『7つ』吐き出した。……盗賊と、今回の傭兵。その余剰分だ。人間が赤子から大人に至り死ぬ、という段階を経て成長するのは肉体と業だけではない。僅かに魂も成長するのだ。僕はその成長後の魂を体内で無垢な魂に精製するわけだが、ここで少しずつ余剰分がたまり、時折新たな魂として排出される。


 聖人君子は業をほぼ溜めない分魂の成長量が多く、死ぬと魂が稲妻の速さで昇天し、いくつかの無垢な魂となって飛散するらしいが……僕の使命的にはあんまり関係の無い話だ。


 で、傭兵の魂を食ったという事は彼らの記憶は僕の手中にある訳だが……。


 んー。隣国から流入というか、これ実質的に隣国から戦争仕掛けられてないかな? こちらの国でなんでも良いから騒ぎを起こせという隣国の命令を受けて金を握らされた傭兵たちがこっちの国に来ているらしい。


 関所は何をしてるんだ、と言いたいところだが、街道以外のルートで密入国されれば防ぎようが無いからなぁ。


「んー、戦争かぁ。業が深まるから良くないと思うんだけどなぁ」


 古戦場に幽霊や魔物化した白骨死体が彷徨くというのは有名な話だが、あれは戦争の所為で憎しみや怒りの感情に苛まれた、業の深い魂の成れの果てである。


 動物的本能から来る『縄張り争い』の一環とはいえ、人間ほど大規模に殺しあう種族は珍しい。高度な精神的機能を持つが故に怒りや悲しみを戦意に変えてしまうのだろう。……そして業を抱え込む。


「難儀だねぇ……僕の仕事を増やさないで欲しいのだけれども」

「旦那さん、戦争やめさせるの?」

「いや、そこまではしないというか出来ない。一応、戦争も人間の営みなんだし、過度な介入はしないのが天使としての嗜みだ」

「そっか。じゃあこれから忙しい訳じゃないよね?」

「うん。のんびり旅しながら悪い奴を手の届く範囲で食べる。別に急がないし戦争にも行かないさ。……戦争の方からこっちに来る事はあるかもだけど」


 僕がそう返すと、オーティスは安心した様に笑って、僕の胸元に頬擦りしてくる。


「ん? どうしたのオーティス。甘えん坊だね」

「うん。忙しくないなら、今日はゆっくり旦那さんとエッチ出来るなって」


 ……。


 あ。


「……そういえばそういう約束だったね」

「俺もお姉ちゃんも楽しみにしてるんだよ? そうよご主人様。私も楽しみにしてるの」

「……はぁ。天使が約束を破るのもあれだしなぁ……。うん。……おいで」

「わぁい!」


 言うなり立ち上がって、シャツとズボンを脱いでしまうオーティスは、なんというか子供っぽい。だが、その手が可愛らしいパンティに掛かったところで、ヘンリエッタが割り込んだのか動きが止まる。


「オーティス、焦らないの。ね、ご主人様。もう一枚だけになっちゃったけれど、脱がせて?」

「ん。……ああ」


 ヘンリエッタは風情的なものを楽しみたいのだろう。その求めに応じて僕がパンティに手を掛けると、見せつける様にその腰を僕の眼前に突き出す。目の前でピロンとパンティから飛び出す小さなモノとすべすべした鼠蹊部。知っては居たが、無毛の白い肌が眩しい。


「ご主人様、魔術を使って欲しいのだけれど」

「魔術? ああ、なるほど。傭兵が覚えてるこれかな? ……『老廃物分解』」


 ぴとり、と吸い付く様なオーティスの穴に指先をあてがい、僕は魔術を発動した。本来は戦場で便秘解消や風呂がわりに使われる術らしいが、娼婦や男娼は腸洗浄に使うらしい。犯罪奴隷は魔術を使えないので、僕が代行したという訳だ。


 分解によって生じた真水とガス——錬金術師曰く炭酸水のガスと同じもの——が溜まっているのか、オーティスの腹はぷくりと張っている。にもかかわらず、おならを遠慮してかプルプル震えて我慢しているのは何やらこう、いじらしい。


 だが、あまり我慢させるのも毒だろう。僕は胡麻油を手に塗してから、オーティスがキュッと閉じている其処に指を差し入れ、ガスを抜いてやる。シュー、というすかしっ屁の様な音がするが、無臭だ。発酵ガスではないので当然だが。


 それでも恥ずかしかったのか顔を赤くするオーティスを膝の上に座らせて、僕はオーティスと口づけを交わし、その頭を優しく撫でる。


 その行為によってどうにか緊張が解れたらしいオーティスは、とろける様な笑みを浮かべながらいそいそと僕の服を脱がせ始め、やがて幌馬車の暗闇の中で、一糸纏わぬ2体の人喰い鬼が絡み合う。


 重なり合う胸板。僕の物と違って筋肉質ではなく、最低限の胸筋の上に乗った皮下脂肪が柔らかい。……というか、これは所謂女性化乳房になりかけているのではないだろうか。容れ物が男とはいえ、中身は半分女の子なのだ。魂に引っ張られた肉体が自然な範囲内で可能な限り女性に近付いているのだろう。


 そんな胸板の桃色の固く尖った先端を僕の胸に擦り付けるたびに、熱い吐息を吐きながら震えるオーティス。彼が腰をゆっくり位置調整しながら座り直せば、つぷり、と音を立てて僕が彼を貫いた。


「んふぅぅんッ……ああ、旦那さん。俺、幸せだよぉ」



 震える声でそう言いながら荒い息を吐くオーティスを抱きしめて、僕はゆっくりと馬車の荷台に倒れこむ。


 そのまま、1つ、2つとキスを交わす。ゆるゆると前後し始めるオーティスは、夢中で僕を抱きしめ、僕の唇を舐り、愛らしい獣と化して、甘えた犬の様に鳴いた。


 そのねだる様な声に応えて、僕はオーティスの動きに合わせる様に動き、柔らかな肉を擦り、抉り、穿つ。


 やがてガクガクと震え、薄く胤の混じる液体を僕の腹筋の上に垂らしたオーティスは、恍惚の笑みで僕と唇を重ねて『交代した』。


 それと同時に、オーティスの肉体の動きが変わる。……猫の様な笑みを浮かべて、大きくうねる様にその肢体を振るうのは、ヘンリエッタだ。


「ご主人様、ごめんなさいね、オーティスだけ気持ち良くなっちゃって」

「ご褒美だし良いんじゃないかな?」

「でも、奴隷だもの。ちゃんと御奉仕はしないとね?」

「そうかな?」

「そうよ。……だから、弟の分までたっぷり、御奉仕させて頂きますわ、ご主人様」


 そんな言葉と共に、白魚の様な指が僕の胸板で踊り、その指先で僕の乳首を弄ぶ。口付けも甘える様なオーティスのそれとは違い、獰猛な舌が僕の舌に絡みつき、扱き上げる様な激しい物へと変わり、僕の神経にくすぐったい様な快楽が流れ込む。


 だが、それは諸刃の剣。捕食者の様に振る舞い、笑みを浮かべるヘンリエッタだが、深度の深い接触によって強烈に励起された奴隷紋が彼女に快楽を叩き込み、平静を装いながらも素直な『分身』は潮を吹く様に分泌液を放出している。


 だが、それでもヘンリエッタは全身を火照らせながら、僕に奉仕を繰り返す。彼女に導かれるままに僕の手はその胸を揉み、尻を撫で回し、華奢な腰に腕を回して抱き締める。


 全身で彼女を味わい、その内に潜むオーティスも味わい、僕は漸く絶頂に至る。御飾りのモノから胤のないただの粘液が吹き出し、姉弟の胎内を汚していくのは、実に背徳的な快感だった。


 静かに脱力し、僕の上で汗だくになって喘ぐヘンリエッタを優しく撫でる。片付けやらは考えず、今はもう少し、この脱力に溺れていたい。


 そう思いながら僕は抱き枕の様に腕の中の姉弟を抱きしめて、目を閉じる。



 そんな荷馬車の外で、昼下がりの街道で揺れる荷馬車を引くロバ君が、「やれやれ」と鼻息を鳴らした様な気がした。

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