第19話 ギャルネーム。

 用を足し終え、手をしっかりと洗ってトイレを出た瞬間、

「あっ。」という声が女子トイレのある方から聞こえた。


 声の方を見ると、そこには龍ヶ崎と柏木がいた。


「何してんのー?」


「いや、トイレだけど。」


 もしかしたら、トイレは用を足すこと以外に何かすることがあるのかもしれない。何かは知らないけど。



「あ、そっかー。」


「うん…。」


 龍ヶ崎の声を聞くと、トイレで守屋が言った言葉を思い出し、変な緊張をしてしまう。


 しかし、柏木は喋らないので龍ヶ崎の声しか聞こえない。



「そういえば、実咲ちゃん大丈夫なの?」


 チャラい守屋と皆口でさえ平本のことを名字呼びなのに、龍ヶ崎はすでに名前で呼んでいた。流石ギャル。おそろしい。



「多分、大丈夫だと思うけど。」


「ならよかった!さっきは空気やばかったよね。」


「確かに。」


「うん!あ、さっきで思い出したけど名前、間違えてて本当にごめんねー。」


「あ、もう気にしてないから大丈夫。」


「ちなみにフルネなに?」


「え?ごめん。フルネ?ってなに?」


「フルネームでしょ!」


 いや、フルネームをフルネとは言わないだろ。



「えっと、春日井優真っていうんだけど。」


「かすがいゆうま?なんだか、ゆーこと似てるね!」


 かすがいゆうまと、かしわぎゆうこ。


 似ているようで似ていない気がする。



 だがこれも似ていないと言えば殴られるかもしれない。などと考えていると、黙っていた柏木が

「似てない。」とすっぱり否定した。


「ゆーこごめんって!そんなに怒らないで!」


 怒るほど似ていると言われるのが嫌ということは、かなり嫌われているのだろう。何もしていないのに。



 睨み付けてくる柏木から目をそらすと、予鈴が鳴りだし、龍ヶ崎が焦り始めた。


「やべ、行かなきゃ。じゃあまたね、ゆーま!」


 またねって、同じクラスなんだけど。


 それにゆーま…。やはり、ギャルはおそろしい。

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