第5話 王道ヒロイン。

 2時限目は掃除だった。


 各クラス、それぞれ自分達の教室と廊下を簡単に清掃するだけだったので、さほど苦にならなかった。


 問題はこれから行われる委員決めだ。


 一度決まれば委員は1年間変わらない。

 つまり、この委員決めで今年の青春レベルが決まると言っても過言ではない。



 この学校には4つの委員がある。


 委員長。

 委員の長。クラスのまとめ役。委員長キャラのヒロインは王道だ。なれるのは1人、狭き門。


 整美委員。

 教室の整美をする。毎朝、花瓶の水を換えるヒロインもあり。なれるのは1名、こちらも狭き門。


 体育委員。

 主に体育の授業でクラスを取り仕切る。運動部系の女子も青春には欠かせない。なれるのは男女1名ずつ、恋愛発生間違いなし。


 保健委員。

 怪我や体調不良の人のお世話をする。保健室などで目を覚ましたときにいてほしい存在。なれるのは2名、男女は関係ない。


 以上。



 青春において重要な、ヒロインが決まる委員決め。


 もちろん自分がどれかの委員に立候補するわけではない。

 立候補するのは未来のヒロイン達だ。



 悲しいことに去年は何もなかった。誰とも。何も。


 今年こそ、真のヒロインが正しい役につき、ラブコメが始まる。そんな予感がしていた。



 委員は基本、各委員になりたい人が立候補し、多数いた場合は多数決、1人も立候補しなかった場合は担任からの推薦で決まる。


 そういうシステムなのだが、今回も多数決と推薦はされなかった。



 なぜなら、去年と同じくすべての委員が立候補で決まったからだ。

 しかもそれは、去年と同じメンバーだった。



 こういう結果になり、ようやくあることに気づく。

 それは、去年の委員のメンバーこそが、ヒロインだったという真実だ。


 去年何もなかったのは今年のためだったのか。

 こんなことにも気づけなかった自分が情けない。が、落ち込んでいても仕方がないのもまた事実。


 とにかく委員が決まったのは良いことだ。そんなことを思っているともう一つの事実に気づいた。



 入学して1年。未だに委員の彼女達と話したことがなかった。


 これはまずい。非常にまずい。

 早くコンタクトをとらなければ。


 今年も委員活動頑張ってね。の一言でも伝えよう。


 勇気を出し声を掛けようとしたその瞬間、授業終了のチャイムが鳴りだした。



 まだ声を掛ける時ではなかったのか。

 思考だけがプラスで、現状はプラマイゼロな事実にだけはいつまでも気づけなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る