第2話 通学イベント。

 いつも通りの通学路。


 徒歩で行ける距離の学校だが、雨のせいか、いつもより遠く感じる。



 きっと、この先の曲がり角で美少女とぶつかるというテンプレートなイベントが発生するだろう。

 そう思い続けて1年経つが、未だに訪れない。


 今日こそはと、角を曲がった。


「うわぁ」という、か弱い声を出しながら倒れたのは自分の方だった。


「テメェ、どこ見て歩いてんだよ?!」


 ヤンキーとぶつかってしまった。いかにもな台詞を大声で叫ぶ彼にビビってしまったが、これもテンプレなのかもしれない。と考えるだけの余裕はあった。


「……っ」

 だが、声がでない。それに、なんだかズボンが濡れてきた。

 漏らしてしまったのか?いや、雨のせいだ。そんな無駄なことを考えていると、ヤンキー達が近づいてきた。


「なに無視してんだよ!!」

「もしかして、コイツ泣いてんじゃね?」

「アハハっ!」


 とても怖いが、泣いてはいない。きっと雨だ。


「てかさー、今ぶつかったので怪我しちゃったからお金、払ってもらおうかな。」


 そう言って、ヤンキーが鞄に手を伸ばしてきた。

 全身に緊張が走り、動けない。終わりか。


「こら、君達やめなさい!」


 そう思った瞬間、女の人の声が聞こえた。

 もしかしてこれは、格闘技をしている美人な先輩が助けてくれる方のイベントだったのか!と期待を胸に声の方を向くが、そこにいたのは近所のおばちゃん軍団だった。


「なにしてるの!」

「やめなさい!」

「この不良共め!」

「早く消えろ!」


 怒涛の勢いで叱るおばちゃん軍団に、さすがのヤンキー達もビビったのか、

「う、うるせー!」と言いながら去っていった。


 なんとか助かった。


 安堵の気持ちと美人な先輩とのイベントではなかったことへの残念さを噛みしめながら、おばちゃん軍団にお礼を言うと、笑顔で励ましてくれた。とても優しい。



 さっきまで動かなかった体に力を込めて立ち上がり、ようやく全身がびしょ濡れであることに気づく。

 ついてないな…と悲しみながら鞄を拾い、おばちゃん軍団に見送られながら、学校へと向かった。



 この時点で完璧な計画が失敗していることに気づくべきだった。

 いつものペースで通学してしまい、学校へ到着し、唖然とした。


 門が、閉まっている…


 本当に今日はついてない。そう思う気持ちは、濡れた制服や鞄よりも重く、雨雲のように暗かった。

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