語らない部分にも凄みがあります。

「私」が語る強烈なお話でした。ただ、「私」だからこそ、口にしない部分も、それに負けないくらいの凄みがありました。

「私」にひどい仕打ちをする「あの子」が、単なる悪意の塊りではなく、物を考え、何かを感じ、まわりとのギャップにとても喘いでいる、そんな風に「あの子」が生々しい一人の人間として浮き彫りにされている様な気がしました。

それに、初対面の「あの子」が「私」に辛辣な言葉を浴びせる際には、「あの子」がうつむいて逡巡するだけの理性を持っていたにもかかわらず、看過できずに感情を爆発させる。また、今の二人が顔を合わせる時には、別人の様に変わった今の「私」に「あの子」が気付くのか? その時の反応からも、「あの子」にとって、「私」の存在が決して小さくないように感じました。

なので、最後まで読むと、とても強いショックを受けました。

また、ショックの余韻として、賢くきれいであろうとした果てに、「あの子」の様になってしまうのか、それとも、多少の理性を捨てでも、多くを手にした「私」の様になるのか、自分なら、どちらを選ぶか?、もしくはどちらになってしまうのか?、そんな問いを投げかけられている様な気がしました。

それから、最後に、変わり果てても、理性をもって顔を上げて一言浴びせる「あの子」と、人の姿を保っていても、その行いは過去の「あの子」や、さらに今の「私」が言うところの「人間」と違っている。そんな最後の最後で二人の交わすやり取りが、追い討ちの様に響きました。


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