ネメシスの渇望

ヒヨリ

観測者の末裔による追憶

 もう正しい記述さえ残っていないほど前の話。

 六人の魔術師が、とある地に六人のを封印した。自身の命と引き換えにして。

 詳しい経緯も、理由も、意図も今となっては不明瞭。一つだけ分かることは、その六人の魔術師は世界を救った英雄とされていることだけ。


 そんな英傑達が遺した魔術組織は、永くの時が経過した今もなお魔術師達に居場所を与えている。


 かつて、魔術はこの世の全てを統べるとも言われる万能の力だった。

 火を起こし、風を操り、病を治す──そんな力が与えられた自分達を、魔術師は神に選ばれた存在だと信じて疑わなかった。

 しかしいつしか魔術は廃れ、科学が発展し……人々は魔術や魔術師といったものを御伽噺として嘲笑うようになる。


 こうして、魔術師の時代は終わりを告げた。


 それを受け入れて身を隠した者、それを認めずに魔術師であることを誇示した者、反応は様々であったが魔術の衰退は止まらなかった。

 御伽噺によくある魔女狩りだなんて分かりやすい事すら行われず──ただひっそりと音も無く。魔術はその痕跡を世界から消していったのだ。


 しかし一方で魔術師が絶滅した訳でもない。

 身を寄せ合い、共に手を取り、そして時には敵対する別の魔術師達を食い潰しながらも確かに存在している。

 その内の一つとも言えるのが先述した魔術組織だ。


 それが、私が身を置く唯一つの箱庭でもある。

 かつて“叡智を極めた者”と称された魔術師が身を寄せ合う為だけの鳥籠。


 ここは、魔術師にとっての楽園だろうか?


 それとも、出口のない牢獄であろうか。


 その答えは今となっても分からない。

 この場所が作られた意味も、私が何故こんな場所で滅びを待っているのかも。


 一つだけ言えることは──私には使命があるということだけだ。


 胸を焦がすのはただ一つの思いのみ。

 この願いを叶える為ならば、私は例え神にだろうと刃を向けるだろう。



       ──観測者の手記より──

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