第8話

「えーと、それではいきますよ?」

 急に静かになったみんなの反応をいぶかしく思いながらも、隆は集中して魔力を練る作業を開始した。

 何しろ9人も居て、多分隆を除く5人の男性は、2つ以上平らげるはずと20個ぐらいは用意しようと思ったのだ。

 もちろんハンバーガーをだ。

 更には、ちょっと奮発して、ポテトフライも出してやろうと、さらなる集中を試みる隆の周りには、物凄い魔力が、渦巻き始めた。

 マルコ達は、口をあんぐりと開けたまま、隆を見つめていた。

 魔法を使えないマリア以外の鷹の爪の面々にさえ、隆の周りに魔力が集中していくのが判った、というか、可視化した魔力の渦が、見えていた。

 エレナさんは、シルビア嬢をかばう様にして、前に出て身構えた。

 夕闇の迫る遠くの森から、怯えた鳥が、一斉に飛び立つのが見える。

 だいぶ離れていたとはいえ、辺りを徘徊していた魔物の気配も、明らかに消え去ってしまった。

 いったい、何が起こっているのだ!?

 もしかして、メテオストライクとかの、神話級の大魔法が行使されるところを、目撃しているのではないだろうか? とさえ思い始めたところで隆が叫んだ。

「ハンバーガーとポテトフライ!」

 渦巻く魔力が、大きな魔方陣のような文様を形成し、唐突に弾けた。

 そして、思わず目をつぶってしまった一同の前には、ニコニコと、どや顔でホカホカと香り立つハンバーガーと、ポテトフライを大量に抱えて立つ隆がいた。

「出ましたよー、魔法で」

 気の抜けたセリフを投げる隆だった。

 皆、緊張が解けた反動から、一斉に大きなため息を吐いてしまったが、その直後、えも云われぬ、美味しそうな香りが漂い出ていることに気が付いた、隆から。

 正確には、隆が抱えている紙に包まれた何かからだった。

「はいどうぞ、熱々ですよ~」

 一通りハンバーガーとポテトフライの包みを、皆に配り、残りを真ん中に敷かれた布に乗せると、思い出したように、ホセがお茶をそれぞれに配った。

「あ、これは紙で包んであるので、中身だけ食べてくださいね、紙は、食べられませんよ?」

 誰も手を付けようとしないので隆は、おどけた感じで言い、見本のつもりで包みを開いて一口齧って見せた。

 相変わらずジャンクフードの王様と断言出来うる、暴力的な美味しさだった。

 誰も居なければ、例のセリフを叫んでいたはずだった。

 それを見て皆それぞれ手に持った包みを開けて、恐る恐る噛り付いてみる。

「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」




 マルコは隆に渡された美味しそうな匂いのするずっしりとした紙玉と小さな紙袋を見て思った。

(これ、絶対魔法じゃない!)

 マルコだけでなく、その場にいたほとんどの者がそう思っていた。

 ただ、ちらっと見たところ、魔法使いのはずのマリアだけは、何の疑問も持っていないかの様に、隆にピッタリと寄り添い、嬉しそうに貰った紙包みを抱えていた。

 確かに、魔力は使っていたし、素人目にも可視化するほどの魔力が収束するのも見た。

 だが、マルコの知っている魔法とは、こんなではなかった……、はずだ。

 しかし、隆が包み紙を開いて、噛り付いているのを見て、皆隆にならって包みを開き、中身に噛り付いた。

 衝撃だった。

 中身は、パンに挟まれたよく見る生野菜、レタス、トマト、オニオンと、こんがり焼かれた肉だが、スパイスの香り立つ、ひき肉を固めた肉汁溢れるパティに、トマトとマスタードベースのソースが絶妙に絡み、新鮮な野菜類とピクルスがまたアクセントとなって味蕾に襲い掛かる。

 よく知っている食材なのに、こんなうまい食べ物は知らなかった。

 あっという間に食べ終わり、もう一つの小さい紙袋を開けてみると細長いスティック状の揚げ物の様だった。

 何だろう?、と思いながら一本抜き出し、何も考えず齧ってみる。

 芋だった。

 しかし、外はカリっとした歯ごたえがあり、中は湯気も立つホクホク感がたまらず、そしてほんのりとした塩味がまた絶妙だった。

ふと我に返ると、あっという間に完食していた。

 ダヴィ、ホセ、ミゲルとハイメも完食してしまって呆然としていた。

 それに気づいた隆が、前に敷いた布を指さし云った。

「あ、足りなかったらお代わりをどうぞ。」

「「「「「頂きます!!!!!」」」」」

 みんな猛然と紙包みに群がった。

 もう、魔法がどうとかは、どうでもいい事だった。

 そう、美味しいは、正義なのだった。


 10分もしない内に、すべてを完食してしまった一同は、焚火の周りに座り茶を飲みながら休んでいた。

 ゴブリンの襲撃から始まって、隆が現れてからの様々な常識破壊に、気の休まる暇が全く無かったのだ。

「タカーシ様、美味しいお食事のご提供、誠にありがとうございました」

みんな幸せそうな顔ではあったが、無言だった為か、代表でと言うことか、シルビア嬢が言った。

「食器もない状態でも、問題が無いように紙で包んであったのですね?」

「はい、こういった状況では便利かなっ? と思いまして、あの紙も、ちょっと特殊な加工がされているので、ソースなどが染み出さず、手も汚れない優れものなんです」

 そんな加工をどうやったのか、とか突っ込みたい一同だったが、もう『タカーシ様のなさること』と、ほぼ悟りの境地に達している皆様だった。

 包み紙も、既に焚火にくべてしまっていた。

 ただ、マルコは、どうしても気になったのだろう、マリアに尋ねてみた。

「マリア、タカーシ様のさっきの魔法の属性はなんだ?」

「俺にも魔力? が、見えていたんだが……」

「あ、リーダーもですか、俺たちにも見えていました」

 ホセが口を挟み、他のみんなもそれぞれ頷いていた。

「……全部、……多分、……全属性の、……精霊が、……来てた、……知らない子も、……いた。」

「ぜ、全属性か、しかもマリアが知らない属性って……」

 改めて賢者(と決めつけている)隆の凄さを思い知った一同だった。

「……でも、……みんな、……楽しそう、……だった」

  隆の無茶な要求に応える為、ほぼすべての属性の精霊たちが集まっていた様だ。

 そして、精霊たちにとっても、隆の魔法は、世界にも、人にも、何の被害ももたらさず、人々を笑顔にする楽しい魔法だったので、結構な無茶をしてでも手助けしたいと思える物の様だった。

「マリア、自分でも出来ると思うか?」

「……無理」

「……魔力、……足りない」

 そう、よしんば魔法で食材を作り出す、または次元を超えてどこかから調達できるとしても、それを魔法で調理して、一つの食品に仕上げることは、作業としてもまた、魔力量という意味でも、どんなに優秀な者だったとしても、普通の魔法使いには無理があった。

「タカーシ様のレベルは、どの位なのでしょう? お聞きしてもよろしければですが……」

 遠慮がちにシルビア嬢が聞いて来た。

「あ、やっぱりレベルってあるのですね」

「それがさっぱり判らないのですよ? さっきも何度か上がったのですが……、調べ方って、あるんでしょうか?」

 隆が言うと今度はマルコが答えた。

「レベルなどは、冒険者ギルドに行けば詳しく調べる魔道具がありますよ」

「ただ、ギルドでも、個人のレベルは秘匿されるべき情報として、部外秘とされていて、本人以外には教えてもらえませんが」

「へー、そうなんですか? レベルぐらいなら判っても弊害は無いようにも思うのですが……、寧ろ判らないと依頼しにくかったりしませんかね?」

「そこは、ランク分けで対応している訳です」

「因みに我々<鷹の爪>は一応Bランククランとして登録されています」

 ちょっと自慢気にマルコが答えた。

 隆が判らないなりに、感心して頷いていると、シルビア嬢が提案してきた。

「わたくしの鑑定でも、簡易ではありますが、レベルなら見ることが出来ますよ?、魔力量や、生命力は何となくしか判りませんが」

「え、本当ですか、この際、是非に見て頂きたいですね」

「それでしたら、お手をこちらにお乗せ下さい」

 シルビア嬢が右手を差し出してきたので隆は迷わずその手に自分の右手を重ねた。

 シルビア嬢はちょっとうつむきがちに隆の手をもって何か呪文を唱えた後小さく<鑑定>と言った。

 隆は手が暖かくなるのを感じた後、光り出したのでちょっと焦ったが、光はすぐに消えた。

「どうです?」

「……高いだろうとは思っていたのですが、タカーシ様のレベルは100を超えている様です」


とんでも情報が飛び出す結果となった。

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