――資料紹介―― 衣食住足りてますか?

ヒュパティア「さて、ここでいったん休憩になるわけだけど。今、我々の目の前にはあらん限りのスイーツが並んでいるわね」


エル「ザッハトルテ、アマレッティ、高級羊羹はもちろん……マカロンに、ミルフィーユに、ブルーベリーパイ、シナモンロール、パン・デ・ロー、モンブラン…………ここは天国か!!」


カズミ「エルさん……目が子供みたいに輝いてる」


奏「エルさんは大の甘党とお聞きしていましたので、総力を結集して調達してきましたよ」


ヒュパティア「まるで国際会議のサロンのようね……見ているだけで胸焼けがするわ」


エル「俺は昔から常人よりも早く思考ができるが、その分脳でのエネルギーが激しくてな。特に戦った後は糖分の欲求が激しくなるから、砂糖丸ごと齧るなどしていたな」


カズミ「糖尿病に注意してくださいね……」


奏「では、休憩のついでに資料紹介をしましょうか」


エル「資料紹介?」


ヒュパティア「作品の紹介だけじゃなくて、物書きに役に立ちそうな本を紹介もしていこうってわけよ」


カズミ「ふうん、それも面白そうだね。今回のお題は何だろう」


奏「今回紹介する資料はこちらです」



――――今回のテーマ――――



『王様の仕立て屋シリーズ』


大河原遁:著

集英社:出版

全31巻+全13巻+既刊6巻



奏「私のおすすめの一作です♪ 「王様の仕立て屋」という題名ですが、時代は現代でです。主人公はイタリアのナポリで洋裁店サルトを営む伝説の仕立て職人の弟子・織部悠さんです。この物語は、とにかく「服」に焦点を当てた物語です。服を仕立ててお客様に提供し、それがお客様の人生を左右するという、言ってみれば服飾版ブラック・ジャックのようなものですね」


エル「ああ、前回言っていた「服の漫画」か。全31巻+全13巻+既刊6巻というのは?」


カズミ「それがね、このシリーズは2003年から連載が始まって、31巻の時点で掲載された雑誌が変更、そして今でも連載が続いてる息の長い作品なんだ」


ヒュパティア「服という題材で、よくこれだけ長く続けられると歓心してしまうわ」


エル「なるほど、それほど奥の深い領域なんだな、服飾というのは」


奏「この作品がためになるのは、当然服飾の知識が身に付くことですね。小説を書いているときに、キャラクターにどんな服を着せようか迷ったことはありませんか? 服装もまた、キャラクターを構成する重要な要素だと、私は思うんです」


カズミ「僕と奏さんは現代人、エルさんとヒュパティアさんは古代人だけど、世界が違えば服はとても異なるよね」


エル「俺の服は、ユリスでは強さの象徴とされる黒一色。裏生地に強化術文様をあしらってある特注のコートだ。下のロングキルトは動きやすいよう深いスリットを入れてある」


ヒュパティア「そんな格好しているから女の人に見えるんじゃないかしら? スリット深すぎて生足が色っぽいわよ」


エル「あのな。俺の世界の戦闘員の服はコートかローブの上に、必要とあれば鎧を着こむのが一般的だ。とやかく言われる筋合いはない……」


ヒュパティア「まあ、かくいう小生も、一貫してこの槐色のローブね。小生の国のモデルは東ローマ帝国だから、まだまだトーガが一般的だったりするのよね」


奏「ヒュパティアさんの槐色のローブは、深緑の髪色とあわせると、なかなか視覚的に強烈ですね。配色が、完全に毒保有生物のそれです」


ヒュパティア「あ? 喧嘩売ってんの?」


カズミ「僕はまあ……何の変哲もない黒のローブだね。配色はエルさんと同じく黒一色さ。僕は黒色の竜だから、なんか黒以外の服がしっくりこなくって」


奏「そして前世ではカーキ色の軍服と……。もう少し服飾を楽しんでみては?」


カズミ「心に余裕がなかったからね。連載再開したら考えるよ」


(スタッフの笑い声)


奏「最後に私ですが、袖と襟にフリルが付いたブラウスに、エメラルドのロングスカートで合わせてみました」


エル「我らとは逆に、全体的に目に優しい配色だな。軽そうな印象を受ける」


ヒュパティア「それは体重がかしら? それともお尻がかしら」


カズミ「ちょっ」


奏「………………まあ、私も女子大学生ですから、明るい気分で行きたいと思いまして」


エル「なるほどな。こんな格好をしてはいるが、武術で俺とやり合えるというのが、重篤なギャップだ」


ヒュパティア「完全に誘ってるわよね」


奏「少々黙っていてもらえませんでしょうか?」


(スタッフの笑い声)


カズミ「ま、まあ……こんな感じで、キャラクターにはキャラクターのアイデンティティがあるんだよってことで」


エル「現在掲載している作品だと「星降る村の小さな英雄」主人公、アグニはなかなか特殊な格好をしていると思う」


奏「アレは完全にモデルがいますからね。いわゆるスコティッシュハイランダーってやつです」


ヒュパティア「というか、あれほど色々な要素を取り入れたキャラも珍しいわよね。外観は世界樹の迷宮のソードマン、生きざまは同じく世界樹の迷宮の新1の主人公、戦い方は精霊の守り人のバルサ、そして成長した姿は源為朝……」


カズミ「よく合体事故を起こさなかったって思うよ……」


奏「さて、此処までは私たちの服装について話してきましたが、実はもう一つ、この作品が執筆に役立っていることがあるんですよ」


ヒュパティア「ほう。服の知識以外に、何が?」


エル「戦闘描写だな。というより「達人の域」という描写に非常に役立っている」


奏「エルさんの言う通り、達人はいかにして達人たり得るのかという哲学も、この漫画から学びました。私が得意とする「竜舞式護身術」は、この漫画の知識をもとにしています」


カズミ「ああ、あの「合気道」という名の暗殺術ね。奏さんがやってるそれって、もはや完全に戦い方が忍者だよね」


エル「何しろ服を扱う人間は、人の身体を観察する機会が多い。達人ともなれば、一目見ただけで目の前の人間の健康状態や生い立ちまで見えるそうな」


ヒュパティア「主人公の織部 悠も、師匠がこさえたカモッラ(マフィアより凶悪な暴力団)からの借金を返済するためとはいえ、すさまじい度胸の持ち主よね」




奏「というわけで、資料紹介、いかがでしたでしょうか?」


ヒュパティア「作品の紹介自体はほとんどしなかったけれど、本当にかなりためになる漫画だから、ぜひ目を通してみるといいわ。服に関する知識だけじゃなくて、かなりマルチにいろいろ詳しくなれるの。特に異世界物を書いている作者様には、読んでほしいわね」


エル「人間というのはこれほどの域にまで到達できるという参考にもなるかもな」


カズミ「僕も新しい服が欲しくなってきた。自分で縫うか……」

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