第17話

「裕太、明日会える?」


「大丈夫だけど」


「明日は外で会いたいの。

去年、裕太と初雪を見た場所覚えてる?」


「覚えてるよ。でも、いいの?」


「いいよ。少し遅い時間になるけど…。また、連絡するね」


「わかった」



街は煌びやかなXmasイルミネーションが装飾され始めた12月


裕太のお誕生日はもうすぐだった




実家で美香が眠った後


「お母さん、少し出てくるね」

「今から?」

「うん...そんなに遅くならないから」

「わかった。行っておいで」

「いってらっしゃい」


玄関先で靴を履く私の背中に手を当てて母が言った


「薫...ちゃんと...ちゃんと帰ってくるのよ」


「はい」


お母さんは私が何処に行くかわかってるんだ

誰に会うかも...。




人も疎らになった夜の街を彼の待つ場所へと急いだ


「ごめん、遅くなって」


「クスクス、薫、また走ってる。...っで何?」


「え?」


「こんなところまで来いって何かあるんだろう?」


そう言うと、彼はオレンジ色に光る東京タワーを眺めた



「裕太...

私は、裕太を一番には...思えない

娘が、美香が大切なの。

あなたとは...一緒に、歩いていけない」



斜め上を向くあなたの横顔を見つめて告げた言葉に動揺することもなく、私を責めることもせず、彼は悲しそうにふんわりと笑い、落ち着いて話し始めた



「わかってたよ。

薫がずっと悩んでたことも。

心から笑えてないことも」


「ごめんなさい」


「でも、俺は薫のこと、忘れないから。絶対」


「ありがとう。その言葉だけで充分」


「ほんとだから。いつか巡り会えたら、その時は...」


「そうだね。その時は」



その時なんて、あるはずない

あなたを幸せにするのは私じゃない



「裕太...幸せになってね」

「ならない」

「なって」

「ならねぇって」


「もう...泣かないって決めてたのに、そんな事言わないでよ」

必死で耐えてた涙が一筋流れた


「わかった。わかったよ。ちゃんとなるから」

涙を拭ってくれる彼の指先が震えてた



「私、裕太のお誕生日、お祝いするって約束したのに...」


「何だ、そんなことかよ」


「酷いよね。私って。自分ばかり幸せをもらって」


「薫、もういいから、泣くな。俺まで泣きたくなるから」


「ぅん」

私は涙を拭いて笑った


「じゃあね、裕太.....さよなら」


「あぁ」

曖昧な返事しかしない彼は私の手を離してくれない


「ほんとにほんとに、さよなら」


裕太の手をほどいて、1歩後ろに下がった。

黙って手を振ると、彼は右手をさっと挙げるた。

それをきっかけに私は思い切って背を向けた


振り向いたらダメ

絶対、ダメ


裕太、きっと泣いてるよね?

泣かないで

ごめんね

本当にごめんなさい



見上げた空から霙混じりの雪が降ってきた


今年の初雪はきっと私達の涙が混じっているんだね



大好きな大好きな裕太


悲しい初雪の思い出が

幸せに溶かされますように


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