第10話

心が通い合ったとはいえ、私達にはなかなか会える時間はなかった


あれから、会えたのはたった1度だけ。

電話では毎日のように話すけれど、

私が母親に戻るまでのほんの少しの時間




年が明け

美香がスキーキャンプに参加することになった


先生に会えるかもしれない

心が躍る反面、母親としての自分を何処かに隠そうとしている自分に罪悪感を感じていた



「来週、会えるよ」


「ほんと?どれぐらい?」


「結構、長くかな」


「じゃあ、家においでよ」


「いいの?先生の家、学校に近いし」


「今は冬休みだから、生徒もいないよ」


「そっかぁ。わかった。

じゃあ、仕事終わったら行くね。

何か食べたいものある?」


「ご飯作ってくれるの?」


「作りますよー。おいっっしいの作るよぉ」


「やったぁー!」


子供のように喜んでる声を聞いてると、

早くあなたに触れたくて、抱きしめられたくて、胸の奥がキュンとした

まるで、初恋の時のような……

こんな切ない気持ちを再び経験するなんて、思いもよらなかった


すべて先生と出会えたから。



熱を出して看病した時以来の彼の部屋。

食事も終わり、ソファに座って、ずっと話したかったことをたくさん話した


先生はふんふんとしっかり聞いてくれたかと思うと、クスクスと笑ったり、時折、私の髪をいじったり…

そのしぐさを見てるだけで何だか嬉しくて、自分がこんなにもおしゃべりだったかなってぐらい話してた



「でね、先生…」


「もう、その先生はやめてよ」


「あ、そうだよね。でも…

うーんと、平井…さん?」


「ぷっ、何だよそれ」


「じゃあ、何て呼べばいいのよー」


「祐太…でしょ」


「そんなの、急に…」


「じゃあ、練習!言ってみて」


「ゆう…た?」


恥ずかしそうに笑った彼が私の髪を耳にかけて頬にキスをした


「薫…今日は帰らなくていいんだよな?」


「うん、あの…あのね」


「んー?」


髪を撫でながらその手が肩から滑り落ちてきた


「あっ、だから、聞いて」


「だから、なーにー?」



「私ね、高校卒業してすぐに結婚して、20歳で美香を生んだの。

私は………主人しか知らないの。

最初で最後の人なの」


「最後?

最後にはならないよ」


「う、うん。

でもね、私…大丈夫かな

ちゃんと、あなたを…」


最後まで言い終わる前に唇を塞がれた

.

.

.

.

.

自信なさげな顔で見上げる潤んだ目が

俺をそそってること、全くわかってないよな


緊張して震える身体を抱きしめてキスしたけど、彼女の唇は固く閉じたまま。

両手で頬を挟んで、額をくっつけた



「薫さぁ、俺のこと好き?愛してる?」


「うん」


「じゃぁさっ、言って」


「好きだよ…あ…っ…」



愛してると言いかけて、開いた唇に舌をねじ込むように絡めた。

次第に力が抜けていき、深いキスを何度も何度もすると、

彼女が胸を叩いて、涙目で訴えてる


「はぁ、もっ、息出来ないよ」



「なぁ、俺は薫に触れるだけで幸せなんだ。

余計なこと考えないで、すべて忘れて俺だけを見て。俺だけを感じてて。

…………愛してる」





そう言った彼にフワリと持ち上げられてベッドに下ろされた


彼の優しい眼差しが降ってきて、

心が吸い寄せられるように無意識に手を伸ばした。

彼は手をしっかりと握ると指先に口付ける。

まるで、抱きしめてくれる始まりの合図のようなキス


柔らかい唇が首筋に這い、それと反比例するかのように指先で強く胸を刺激される。

もう、どうなってるかわからないぐらい、彼に翻弄されていた

.

.

.

.

.

彼女の声が俺の中心に響いた


細く壊れそうな身体が必死で俺を受け入れようとしてくれる


たまらなくなって、離れそうになると引き寄せる。

彼女もそんな俺の背中にギュッとしがみつく


何度も繰り返し触れ合う。

それだけで、満たされそうだった。

内股に手を滑らせた時、薫も満たされてたんだと嬉しかった


「やっ…」


「もう、充分みたいだよ」


「祐太…」


俺の腕を掴んでしっかりとした目で見つめる薫


「どした?」



「祐太で…いっぱいにして」



薫の目尻から涙が一筋流れた


俺はそれを見ないふりして、ゆっくりと繋がった。

彼女の熱い中に俺の全部を注ぎ込むように何度も何度も…。


「んんんっ、もう、だめ、ゆう…た…」


「薫、もっと…もっと、呼んで」




祐太…


抱き合うことがこんなにも愛しくて、あったかくて、幸せなものだと、

あなたが教えてくれたんだよ

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