第3話

生徒の母親

たくさんの生徒の中の保護者の中の1人


…なのに

彼女の包み込んでくれるような空気感と優しい笑顔が心の隅に残った


初めて会った時に感じたこの気持ちは一時の気の迷いに違いない。

でも、ふとした時に浮かぶあの笑顔

気がつくといつも彼女を思わない日はなかった


教師ではない、ただの男になりそうな自分を何度も引き戻そうとしていた。

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1学期の終わりの個人懇談

仕事帰りの遅い時間に学校へ向かった私は先生に会えると思うと、心が騒ついてた


薄暗くなった教室で1人仕事をしている先生の姿があった



「遅くなって申し訳ありません」


「いえいえ、どうぞ」


娘の学校での様子を聞いて、

それから…

相変わらず、先生が熱く語り始めた


「先生?」


「あー、すいません。また、話し過ぎちゃいましたね」


「いいんですよ。では、娘のことよろしくお願いします」


「はい。また、何かありましたら、何でもおっしゃってください。こちらこそよろしくお願いします」


お互いお辞儀をし、教室を出ようとした時、校舎の窓から燃えるような夕陽が見えた


思わず窓際に行って眩しい夕陽に目を凝らしてると


「うわぁ、すっげぇ」


背後から聞こえた声


「え⁉︎」


今まで話していた先生とは別人のような言葉にびっくりして振り返った


「あっ、あまりにも綺麗だったんで、つい…」


恥ずかしそうに俯いた先生の顔が赤くなったのか?

それは夕陽のせいなのか?


「クスクス、いいえー。もう、お仕事も終わりですもんね」


「はい」


そう嬉しそうに返事をすると私の横にピタリと並んで黙って空を仰いだ


先生の腕が少し触れただけで、鼓動が早くなる


沈む太陽より、あなたの横顔を見ていたくて、そっと、視線を動かそうとしたけど…

どうしても、動けずにいる自分がやるせなくて、ただ、真っ直ぐ水平線を眺める術しかなかった



もう少し…

もう少しだけ

このまま、いたいと思った


落陽がこんなにも早く感じたのは

初めてだった。








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