私の左目は蝶を観る 21(EPILOGUE)

 バステト様達から、色々なネタ晴らしと謝罪。

 そして、今後の私の役目についての話を聞いた。


 今後の事の詳細については、長くなるのでまた後ほど話をするとしまして。



 その翌日。ループ的に言えば二日目の午前中。

 私は一人で、一軒のお店を訪れていた。


 カランカラン。と。

 扉に取り付けられた、来店を知らせるベルの音。


 鉄や油、それに少しハーブの様な香りの漂う店内。


 壁や店内のテーブルには、所狭しと様々な武器が、綺麗に陳列されている。

 それだけでも、この店の店主が武器という物に大きな愛情と愛着を持っているのが分かる。


「いらっしゃ―――い。始めてみる顔やな、旅人さんか?」


 店に入ってきた私を、そう言って鉄仮面さんの声が出迎えてくれた。

 彼はカウンターの奥で、新聞を広げて読んでいる。


 午後からの出勤なのか、まだジャービス兄弟はいないらしい。

 まさか一日目にしてクビになったとかないよね・・・あいつらならありえるから怖い。


 ただ今に限っては、彼らが居ないのは都合がいい。


「えっと、武器を一つ買いたいのですが、一通り眺めてみてもいいですか?」


「おう、じっくり見てくれ。何か気になったら声かけてくれればええから」


「ありがとうございます」


 そうとだけ言うと、鉄仮面さんは再び新聞に視線を戻した。


 私は店内をぐるりと1週して様々な武器をみている、ふりをしながら、最終的にはやっぱりマトバの前で立ち止まる。

 暫くそこで値札を眺めていると・・・案の定、鉄仮面さんがこちらにやってきた。


「姉ちゃん、それに目をつけるとは中々やな」


 お決まりの台詞。

 お馴染みの台詞。


 本当にどんだけ売れないんだろうマトバ・・・


 今回は、チュートリアル先生をしてもらう時間もないので、コレまでと違い予備知識がある前提で話をする。


「これ、ストレージが無いって事は、直接魔力注ぐタイプですか?」


「良く分かったな。せや、その回転弾奏自体が単発式ストレージになっとる」


 銃の情報に関しては、なるべく早めに畳みかけよう。


「ちなみに連射性高そうですけど、溜めってどれくらいありますか?」


「全弾一気に魔力を込めれたら、事実上攻撃時の溜めは無いに等しいな」


 もう一押しかな?


「汎用じゃなくて特定魔術限定ですか?」


「せや。風魔法専用や」


 よしきたここだ。


「おお!私、適正が風なんです!」


「マジか!よっしゃちょいまってろ、触らせたる」


 よーしよし。スムーズにマトバを出してもらう所まで来たぞ。

 後は、このタイミングでの・・・お金の話!


「あ、でも・・・手持ちだと足りないのでそれは申し訳ないです、15万くらいで、他に何か近い性質の武器があれば・・・」


 私の言葉に、鉄仮面さんは棚を弄る手を止めて、面白いくらいションボリした表情になる。

 仮面で顔が見えないはずなのに表情が伝わってくるのが凄い。

 そういう機能のついた仮面なのだろうか。


 暫くの間「うーん・・・せやなぁ・・・うーん・・・まぁええやろ」と何か考えていたが、そのままカウンターの奥に戻ってなにやらゴソゴソと探し始めた。


「あったあった。うわ、めっちゃ埃が・・・ちょいこっち来て」


 貴重なマトバファンをアピールして値切り作戦のつもりだったのだが、どうも本当に別の近い性質の銃があるっぽい。

 出きれば愛着度MAXのマトバ9999が良かったのだが、この際文句は言えないだろう。

 むしろあの銃にも変な因果が絡んでいたりすると、それは今後の旅に宜しくないなと思い直す。


 カウンターの上には・・・確かに埃っぽいが綺麗な装丁の木箱が置いてあった。

 鉄仮面さんがその箱を開くと―――


「・・・マトバ? でもなんか微妙に違う?」


 箱の中には、確かにマトバなのだが、9999とは微妙にデザインの異なった銃が収まっていた。

 見た感じ大きさは同じだが、シリンダーの数が6ではなく・・・8発、グリップのデザインも微妙に違う。


「コイツは [マトバG.Sゴールドスミス] つってな、9999フォーナインズ以前に少数作られた8連発の旧型や。威力性能だけなら9999よりも高いんやけど・・・魔力消費量がその分倍近い」


 なるほど、要するにピーキー過ぎて売り物にならなかった系の武器というわけか。

 でもそれを見るからに初心者の私に出してくるのは、ちょっと鉄仮面さんらしくない。


「まぁ、百聞は一見にしかずや。試しに魔力込めてみ。ちょっとビックリするから」


 言われるがまま「はぁ・・・」と生返事をしてマトバGSを受け取る。

 握った感じは9999とほぼ同じ。少しだけ重いかな?と感じる程度の違い。 

 

 とりあえず勝手も分からないので、いつもの6発装填の倍、をイメージして魔力を込めてみた。


「お。大丈夫そうです」


「いや・・・まぁええんやけど・・・なんかえらい慣れた感じやな・・・」


「あ、あははは。魔力装填系何度か触った事あるので多分そのおかげかと」


 あまりにもナチュラルに魔力を注ぎすぎて、少し変に思われたかもしれない。

 別にだからといって困る事もない・・・はずですよね?たぶん。


 9999に馴染んだ身としては9999が欲しかったところだが、正直こちらも悪くは無い。

 むしろ魔力消費が多くても、装弾8発なのは個人的には嬉しい。

 8発あれば確実にゴリラが仕留められる。


 ただまぁ、おいくら万円なのだろうか。

 問題は異世界だろうとやはりお金、プライスである。

 プライスレスで生きて行けるほど人生は甘くない。


「10万でええよ」


「・・・・・・え?」


「10万でええ」


 いやいや、流石にそれは何か裏がありませんか?と疑ってしまう。

 思わず周囲に蝶が飛んでないか探してしまった位ですからね。

 私もう、完全に蝶に呪われてますよね!


 だが、あからさまに不審がる私を見ながら、鉄仮面さんは笑ってこう言ったのだ。


「同郷のよしみや。異世界での旅立ちくらい良い事あっても罰は当たらんやろ?

 なぁ・・・女子高生?」


 正直「先手を打たれた」と思った。


 そんな私の感情は、目に見えるほど顔に出ていたのだろう。

 先ほどからお腹を押さえて、鉄仮面さんはケタケタと笑っている。


 やはりこの鉄仮面―――いや。


 的場マトバさんには敵いそうにない。




******




「先達からの忠告というか、アドバイスや―――神様を信じすぎるな。3割は常に疑え。信じるのは・・・まぁ7割くらいにしとけ」


「肝に―――命じておきます」


 マトバG.Sという新しい武器を受け取り、私は最後に深々とお辞儀をしてお店を後にした。



 的場 賢一まとばけんいち


 詳細は教えてくれなかったが、今から約30年前。

 仕事中に遭遇した自然災害で亡くなり、神によってこの異世界に送られた、私の大先輩になる人だ。

 

 元々機械製造系のお仕事をされていたらしく、こちらでの役目が終った後は、あぁして武器屋を営みながら平和に暮らしているという。


 元の世界に戻ろうとは思わなかったのですか?と聞いてみたのだけれど、何か「一度武器の味を知ると、もう普通の生活には戻れんよ・・・」とか思わせぶりな事を言っていた。

 単に武器作りという趣味を謳歌したいだけなのだと思います。


 ちなみにあの鉄仮面は、酔っ払って呪いの仮面を被ってしまい外れなくなったそうで。

 何かもっと凄い曰くとか、親友の形見とか、古傷を隠す為みたいなカッコイイ理由を期待していたのですが、正直ガッカリですガッカリ。

 当人に「アホらしいやろ?でも便利やでこれ。何故か全く蒸れたりせんしな」と言われてしまったので、本当にアホらしくて何も言えなかった。


 彼にはまた何処かで会いそうな気がする。

 新マトバちゃんという縁もありますしね。


 私については、店に入って来た瞬間察していたらしい。

 まぁそうなる様に「そういう格好」で入ったのだから当然だけど。


 今回はゴリラとの戦闘すらしていないので、そもそも私は制服姿のままなのだ。

 流石に防具無しで旅に出るつもりはないが、基本的には制服+装備でやっていこうと思う。

 

 これは、私にとっての戒めでもある。


 私は確かに異世界に来たが、それでもやはり私自身が日本の高校生である事に変わりは無く、今回はその事を忘れて好き勝手したせいで不測のループを引き起こしていた。


 この世界で、少なくとも今はまだ、私は異物なのである。

 だから自分が、只の女子高生なのだという事を忘れない為に制服は脱がないと決めた。

 制服は私が私として、私を自覚する為の大事な装備なのだ。


 ただ・・・流石にどこかで魔法的な加工してもらわないと長旅には耐えられそうに無い。

 カトリーヌさんに頼んでもいいが、あまりここに長居してアンジェに遭遇するわけにもいかない。

 なので制服の加工については、他の大きな街で対策を講じようと思う。


 さてさて。なればもう、この町でやる事もやり残した事も無いだろう。

 

 鞄も持った。

 制服も着た。

 ハンター証も身につけた。


 ナイフもランプも鞄には入ってはいないけど、腰には一丁のマトバがある。


 ・・・腰には拳銃があるって、なんか隠語みたいですね。


「また阿呆な事考えておる・・・で。そろそろ出発するのじゃろ?」


「はい。一先ずは西にある―――王都を目指して。そこで情報を集めてみます」


「分かった・・・ところで早百合。飛行船の時間が迫っておらんか?」


「あっ!? やばい! 急ぎますよテト様! 頭にでも乗っててください!」


「やれやれ。先が思いやられるのう・・・」


 頭に乗った黒猫は、幸先悪そうな声を出してうな垂れている。


 私は町を駆け抜け、飛行船の発着場へと走っていく。

 雑踏を抜け、人ごみを掻き分け、大通りを南へと走る。


 その中で―――ひと組の女性達とすれ違った。


 一人は、銀髪の綺麗なドレスを着た青い瞳の女性。

 一人は、私と同じ位の背丈でメイド服を着た女性。


 二人は中睦まじく腕を組んで寄り添い―――とても幸せそうに歩いていた。


「アン×シャリ・・・いや、シャリ×アン! 悩むなぁ。テト様的にはどっちが好みですか?」


「お主あれだけの事がありながら、ぶっちゃけ懲りておらんじゃろ!?」


「テト様・・・お忘れですか? そもそも私―――」



―――私。異世界で百合しに来たんですよ?

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