第6話 詩的表現の解説

「まぁ、聞いてくれよパァォリィー・シゥーペェィ。先日、AV女優の撮影会に行ってきたんだがな。撮影だけだと思うだろ? 個室で衣装を着せて写真だけだと思うよな? 向こうはポルノスターなんだから……ぷぷ。なにがあったと思う? おまえなら何が起きたらびっくりする? くぷ。うぶなおまえにゃ想像もできないことだよ、パァォリィー・シゥーペェィ。まったく日本って国はクレイジーでパラダイスだな。やぁ、あのサービス精神と言ったら……ぷぷ」



 ……うるせえな。

 混沌? からの覚醒? 中国語は雑音でしかない。意味が全くわからない。

 夢を見てた気がする。ヒラヒラと優雅に舞うアゲハチョウが、またたに石化してパリンっと落ちて片翼がもげた。……ぐるぐると回るレコードと言う古い音響機器のアームにシジミチョウが留まり、やはり石化して、その重みで掛かっているジャズの音色にびしっと芯が入る。……あれれ?


 そっか。一度は覚えのある映像なんだ。あの長話を聞いてるうちに、あまりに長いんで、脳が勝手に散歩して……それをもう一度、夢で見たのか。あの時は100万円の札束で、すぐにそれどころじゃなくなったけれど……



「どうだ驚いただろ? パァォリィー・シゥーペェィ。おっ! 目覚めたようだな。しかしこの界隈でこんなやわな男も珍しいね。男娼になれば売れっ子になるぞ。お肌すべすべ。感染症の心配もいらんから後は任せたぞ、パァォリィー・シゥーペェィ」


 ……名前、あるじゃないっすか。


「ヒロユキ。気分はどうだ?」

五月蠅うるさすぎて目が覚めました。あれ、もぐりの医者っすよね。ってことは、ここは病院……?」

「三日間、眠っていた」

 男は相変わらずスーツでびしっときめている。状況を教えていただくと、まことにありがたいのですが………………なんとなく聞く気が起きない。そのとき、


 バタンッ! ずざぁ。グスン……グスン。スコットランドに春が来た……てめえ、この野郎っ! ジャンっ! ………………よかった。ともかく、ジャンは生きている。



 部屋に飛び込んできたジャンは、ベッドの脇にひざまづき泣きはじめた。そりゃぁそうだ。それだけのことをしでかしたもんな。わかってる。わかってるよ、ジャン……さん。そう泣くな。俺がどこにも行き場がなく、ただただどうしようもなかったとき、一番最初に声をかけてくれたのはあんたじゃないか。



「独身のおまえにはわからないだろうが、俺にもいろいろあるんだ。世間の価値観で俺を非難することはたやすい。でもな、おまえは自分自身の価値をいたずらに下げるような真似はするな。いいか、ヒロユキ? 俺はなにも悪くない。子供もいないのに俺の気持ちなんかわかりっこない。だけど、俺はおまえを許す。なにがあってもな。だから頼むから俺を自由にするように、このでかい男に掛け合ってくれ!!」


 3年も日本に居るのにいいかげん日本語を覚えてくれとは思うが、謝罪の気持ちは言葉の壁を乗り越えて伝わってきた。……ってことはあれか? 盗み癖のあるジャンがここにいるってことはつまり? 100万は無事か? 無事なのか?


「ヒロユキ、心配するな。問題はすべて解決した」


「解決した?」100万はどこに?


「私にも訳がわからないが、くつの連中がどこからか金無垢きんむくの趣味の悪い時計を探し出してきた。それであのやくざ達は引き上げた」


「じゃあ、盗んだのはジャンさんじゃなくて、単なるインネン?」


「さぁな。それよりどうして、日本人のヒロユキのために窟の連中が動いた? 彼らに貸しでもあるのか? 逆に借りを作ったのなら早く返した方がいい」


「秘密の隠し場所から時計が奪われた。その責任は取ってもらうぞ、ヒロユキ!」



 ……ちょっとジャンさん、中国語で割り込んでくるな! えーと、俺が聞きたいのはそういうことではなく……


「いや、パァォリィーさん? シゥーペェィさん? 俺が聞きたいのは……」


「私の名を無理に探すな。パァォリィー・シゥーペェィはという意味だ。次に呼んだら殺す。……だがまあ、すべてはおまえの行動のおかげだ。やくざ達も黙るしかなかった。ボスの了解は取っていたとしても、もめ事は回避する必要があった。だってそうだろう? 誰が信じる? 私もいろんな光景を見てきたがあんなのは初めてだ。誰が信じる? 自らの意思で凶器に顔を押しつけ、眼球をくだなんて、そんな話を……いったい誰が信じるというのだ」










 















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