序章6話 戻らない日常

聞こえる、周りの悲鳴の音が。


腰が砕けて動けない子もいるのか。


「チッ」


めんどくさいけど、唯が気に病むかもしれない。


「唯、あの子たちに肩を貸して角にいけ。ここから出る必要はない」


理由は聞かなくてもいいだろう。


鋼の剣を頭に突き刺した。


「プギャアアア」


汚い悲鳴をあげるオーク。


肉切り包丁を持つものと持たないものの違いはわからない。だが、そんなもので俺を殺せるわけもない。


「うるせえんだよ!」


火魔法で作られた最下級魔法『火球』を二つ飛ばす。


名前の通り炎の玉だ。当たれば相手を焼く、それ以外の力はない。強くしようと思えばできるが、黒焦げのオークなど要らない。


一瞬の停止、そんな隙ができたためグングニールで首を掻ききった。さっさと切ってしまったために爆裂などはしない。


触れて倉庫に入れる。ここら辺はもう慣れたものだ。


「終わったぞ」


一応、教師の遺体も倉庫に入れた。もしかしたら、本当にもしかしたらだけど、高く売れるかもしれないだろう。


臓器系統が売れるかもしれない。


「お兄ちゃん、強いね」


唯がそんなことを言っている。


強いというか、ズルでしかないのだけど。


「そうか、まあお前も強くなるさ」


適当に返したが唯は満足そうに頷く。


唯が肩を貸していた少女を椅子に下ろした。時間が経てば腰砕けも治るはずだ。


「っは」


少しの余所見の間に、腹へと衝撃が加わる。


理由は見ずともわかっていた。


「痛いぞ、唯」

「ん、別に今はいいでしょ」


腹の部分で顔をすりすりしてくる。


本当に可愛い奴だな、誰かに渡したくないくらいに。


「とりあえず、ここを出たい。……調理室に向かうぞ」


考えていた行動の時間のズレを出したくない。


生き残るなら最善の行動を、それが今俺がやらなければいけないことだ。


「途中で売店から物を取るの?」


唯はわかっているようだ。「そうだ」と返しておき頭を適当に撫でた。


少し雑に撫でたというのに、目を細めるあたり気持ちがいいのだろうか。


鋼の剣を唯に渡しておく。防御手段はあった方がいい。


「殺せとは言わないから、死なないように守っていろ」


まだ時間はかかってないから、逃げ遅れた少女も立ち上がれやしない。


さすがにこの状況で見捨てやしない。後で生き残りに渡すかもしれないが。


「君は俺達と来るか? ……一人、逃げるよりは生きていられると思うけど」


少女は首を縦に振った。当然といえば当然か。


椅子から少女を立たせ、無理やりおんぶした。若干、唯から非難の目があるがそんなことも言ってられない。


「捕まっていろ。このまま戦う可能性もあるからな」


しないつもりだが、確定という言葉はここにはない。言っておくのと言わないとでは違うだろう。


足の速さなら唯ですらなんとかなるだろうから、逃げるのを前提としてはいるが。


「そういえば名前は?」

「南、南菜沙です」


菜沙か、聞いたことはないな。


「菜沙はあんまり表に出たくない子だから、お兄ちゃんが知らなくて当然だと思う」


俺の考えをわかっているのか、唯は俺の顔を見てそう言った。


少し気恥しさを感じて顔を背けた。


唯のこの笑顔が眩しくて少し苦手だ。


まだ世界の不条理さを、あまり知らないこの笑顔が。


(唯には俺と同じようなことを、体験させたくないな)


そんな決意をして、菜沙を背負いながらクラスを出た。


昔通った中学の窓を歩きながら眺める。


懐かしい街並みだ、もうこの景色を見ることはないと思っていたんだよな。


いいだけニートを貪ってから、自殺する。本当に親不孝者と言われそうだが、あいつらには好都合だろう。


別に何かを求めはしない。


ただこんな状況になったからこそ、俺は自由に生きようと決意した。


「行くぞ」


隣でこくりと頷く唯が、とても眩しかったのは不思議で仕方がない。


____________________

以下作者からです。


最後の方が少し不満だったので書き換えました。本当にラストの部分なので、もう一度、呼んでもらえると幸いです。


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