○○箱のいいところ3  『大きくても大丈夫』


「まさか朝っぱらから美少女のゲ○を片付けることになるとは……」


 最初は半信半疑だったが、ゴミ箱が女の子になったと分かった時にはドキドキするような事が沢山あるんじゃ? なんて期待していたが、むしろ胃がムカムカするような事しか起きていない気がする。


「……ふぅ」


「落ち着いた?」


「……ご迷惑をお掛けしてすみません」


 本当に申し訳なさそうな顔をしている彼女。役に立ちたい! と言いながら自分が世話される事になったら、そりゃそんな顔になるよな……

 とりあえず生ゴミの処理は、生ゴミ用のゴミ箱に任せる。


「俺はこれから出掛けるけど、君はどうする? 家で俺が帰ってくるまでゆっくりしとく?」


「……いえ! お役に立ちたいのでお供します!」


 俺を励ましたい、役に立ちたいって気持ちは本当みたいだけど、今のところは空回ってるんだよな。

 悪い子ではない! ってのが今の感想だけど、俺も人をどうこう言えるような人間じゃないからなぁ……


「じゃあ、行こうか」


「……はい! 何処に行くんですか?」


 ドアを開けて外に出る。


「学校にね」


「……お休みなのにわざわざ学校に?」


「たまには気分転換に別の場所でアイデアを考えてみようと思って」


 こんな事したって無駄かも知れないって本当は分かってる。でも、やらずにはいられないのだ。


「おーい!」


「…………」


「おーい! 太郎?」


「うん? 何だ太一か」


「何だとは何だ! 十年もの付き合いの親友に向かって」


 声を掛けてきたのは安藤太一。十年近く一緒にいる幼馴染みだ。見た目は金髪のチャラい系だが、悪い奴ではない。


「なっ!? お前誰だその美少女!?」


 太一は俺の隣で歩いている彼女を見て驚いていた。何年も浮いた話の一つもない奴が、ゴミ箱とは言え、こんな美少女を連れていたらそりゃそんな反応もするだろう……


「あぁ、ゴミ……友達かな」


「ゴミ友達!? どんな友達だよっ!」


「いや、いい間違えただけだよ」


「いい間違えてゴミ呼ばわり!? お前いつからそんなドSなキャラになったんだよ!」


「……この人は?」


 静かに聞いてくる彼女。


「あっ、俺? 俺はこいつの親友の安藤太一! 君は?」


「……護博ミオ……って設定」


「今、設定って言った!? まぁ、何でもいいや! 君、可愛いね?」


「…………」


「太郎とは本当に友達? 何処に住んでるの?」


「…………」


「好きな食べ物ある? デザートとか好き?」


「…………」


「無視されてる!?」


「まぁ、多分悪気はないと思うから、許してやってくれ……」


 単に気になったから聞いてみただけなんだろう。


「君、スタイルいいよね?」


「…………」


 それでも懲りずに聞くメンタルの強さはこいつの凄いところだよなぁ……


「特に胸がでかくて」


「……これはゴミですか?」


「初対面なのに辛辣過ぎぃ!」


 太一を指差してゴミ呼ばわりする彼女。女子とほぼ話した事がない俺でも分かる。初対面の女の子にいきなり胸がでかいはダメだろう。


「まぁ、いいや! 結局ミオちゃんは太郎とどんな関係なの?」


「お前のメンタルどうなってんの!?」


 無視とゴミ呼ばわり――女の子にこんなWパンチされた日には俺ならその日は立ち直れない。我が親友ながらこれには驚くしかない。


「友達? 彼女? それとも彼女に立候補中とか?」


「…………」


「ミオちゃん彼氏いるの? どんな人が好み?」


「…………」


「俺はミオちゃんみたいな可愛い子が好きでさぁ! ねぇ、ミオちゃんは俺の事」


「…………」


「…………」


「ん?」


 しつこく聞く太一を無視しつつ、黙々と学校に向かっていたが、急に静かになった。


「太一どうした?」


 振り向くと太一はいなかった。代わりにぽっこりと腹を膨らませた美少女の口から


「食べられてるぅーーーーー!!」


「……ふっ、もう少し、ふっ、で捨て終わる、ふっ、ので」


「食べ進めようとすんな! 早くペッ! しなさい、ペッ!」


 口から出た太一の足を引っ張りつつ、子どもに言うように諭す。


「これ、ゴミじゃないから! 確かにちょーっと、本当にちょーっとウザかったけど、ゴミではないから出したげて!」


「……分かりました。お腹をお願いします」


「あっ、えい!」


「………………オエッ! オロロロロロロローーー!」


 流石に三度目ともなると手慣れた物だ。ヌルリと太一が彼女の口から出てきた。


「いや、本当にどうなってんのそれ! 明らかに圧縮されてない? 太一の大きさとお腹の膨らみ比例してなかったよ?」


「……大きくても大丈夫!」


「君、業務用なの!? 俺のゴミ箱、一般家庭用の小さい奴だったけど!?」


「……ゴミ箱マジック……」


「どんなマジックだよっ!」


 そう満面の笑顔で返してくる彼女。


「いや、人ひとり呑み込もうとした後にその笑顔は怖すぎるから! おい太一! 大丈夫か?」


「……うーん。あれ? 太郎? ミオちゃんと喋ってたら急に視界が暗くなって……そしたら生ゴミみたいな臭いがして」


「完全に別腹に行ってた!?」


 今朝、自ら入れていた生ゴミの臭いがしたなら間違いないだろう。まぁ、その別腹に入っていた生ゴミも、メインに入っていた朝ごはんも両方とも外に出ることになったが……


「俺、どうしたんだ?」


「疲れてたんだよ、きっと……」


「……私もそう思う……」


「原因のお前が言うなよ!」


「……お前じゃない。ミオ……」


「今、それ気にする!?」


 涎まみれになった親友を家に帰し、俺たちは改めて学校に向かった。

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