第2話 ネルエランド

 長老に案内され、この村で一番立派と思われる屋敷に入ると、俺たちは5人ほどの年長者と対峙して座った。

「ところで、我々は南の方から、この地に来たばかりで何も分からないのですが、いろいろと教えてくれませんか?

 まず、この国は何という国でしょうか?」

 俺の質問に一番の年長者で、恐らく長老と思われる老人が話を始める。

「この国は『ネルエランド』といい、ネルエ川で行く事の出来る最も南にある国です。

 ところで、あなた方は『南の方から来た』と仰られたが、ここより南はないはず、なのに南の方から来たとは、どういう事でしょうか?」

「私どもはあなた方の言う『ネルエ川』の下流の方から来たのです。ちょっと前に大地が揺れ、ネルエ川が川でなくなりました。

 そのため、川を遡る事ができるようになったのです。我々は遥か南の方から川を遡って来ました」

「なんと…、そうでしたか。

 しかし、ネルエ川には途轍もない魔物が住んでいたはずです。その魔物はどうしたのでしょうか?」

「それは我々が退治しました」

「なんと…、なので山賊どもも簡単に退治できたのですね」


 長老の話は続いた。

 この「ネルエランド」は鼠人が治める国であり、その国王は暴虐非道、鼠人以外は人として認めないような国王だった。

 税の取り立ても決まった制度がなく、役人と言うやつらがいつも来ては、食料を取り立てていたが、そのうち取る物がなくなると、今度は若い男たちを連れて行くようになった。

 そうなると、働き手がいなくなり、農作物も作れなくなったが、税の取り立ては相変わらずで、悪循環に陥る。

 そんな時、国王が南の国に進出すると言い出し、大量の軍船を造ってネルエ川を下って行ったが、誰一人として戻らなかった。

 国民の間では、魔物に襲われたと言われているそうだ。

 それからは、長男の王子が国を継いだが、次男、三男の王子と相性が悪く、王位継承を巡って対立している。

 王子以外にも、宰相も絡んできて、今や四つ巴の状態とのこと。

 国の中心が乱れているので、当然国の中も乱れており、今やあちこちに山賊や強盗団のような者が蔓延っている。

 それに輪をかけて役人も非道を行っているため、とても安心して暮らしていけないとの事だ。


「前の国王も酷かったが、それでもまだ力のある者が纏めていた分、それなりの秩序がありました。今ではその秩序もなくなって、人を殺しても誰も文句は言いません」

「なるほど、ではこのネルエランドという国以外には何という国があるのですか?」

「ここから北の方にも国があったと聞いた事があります。ですが、このような辺鄙な村では情報が入りません。正直、私共も何という国があるのかさえ、分からないのです。

 このネルエランドが存続している事自体、不思議なのです。

 ところで、何の目的があって、北の方へ行かれるのですか?」

「えーと、観光です」

「か、観光……」

 俺の言葉にその場に居た、年長者たちが絶句した。

「そう言えば、まだお名前を伺っていませんでした。我々を助けてくれた恩人の名前も知らないでは、村人に知らせる事も出来ません」

 長老のその言葉に俺が代表して答える。

「私は、『シンヤ・キバヤシ・エルバンテ』、『シンヤ』と呼んで下さい。

 そして右手にいるのが、第一夫人の『エリス』、その横に居るのが、第三夫人の『ラピスラズリィ』、その横が第四夫人の『エミリー』です。

 反対に、左手に居るのが、第二夫人の『ミュ』、その横が第五夫人の『マリン』です」

「なんと、全員奥方ですか?」

「お恥ずかしながら」

「我々もご挨拶致します。まず、私がこの村の長老で『ケンドレト』、右手が『スデッソン』、その横が『ツーチャベル』と言います。

 反対側が『トットロウ』と『ナキッシュ』といいます」


 それからも長老たちにいろいろ聞いた。一番気になるのは貨幣だ。

 貨幣は昔のエルバンテと同じく、金貨、銀貨、銅貨、錫貨だそうだが、刻印する技術はないので、重さで価値が決まるそうだ。

 ただ、秤はないので、手に持って、お互いに価値を決めるということだ。

 なので、いざという時は最後は力関係で、貨幣価値が決まることになる。


 俺たちが長老たちから、いろいろと情報を得ている時だった。

「長老、大変だー。猪牛の群れが出た」

「な、何だと。それでこっちに来ているのか?」

「こっちに向かっているのを確認している。あとしばらくするとこの村に来るだろう。今のうちに逃げないと」

「だが、食料を全て食い尽くされるぞ。折角、役人どもに隠し通したのに」

「そうだ、やつらは鼻が利く。直ぐに探し出されてしまう」

「隣村もそれで甚大な被害になって、村人もいなくなったじゃないか。俺たちはどうすればいいんだ」

 猪牛の群れの話を聞いて、年長者たちが騒ぎ出した。


「あのう、よろしいでしょうか?その猪牛は我々でどうにかしたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「えっ、今、何んと」

「我々で退治します」

「出来ますか?」

「多分」

「それでは、お任せします。山賊といい、猪牛といい、お世話に成りっ放しで申し訳ないが、お願いできますか」

「いえいえ、ご懸念には及びません。それで、群れは何頭ぐらい居るのでしょうか?」

 猪牛の情報を持って来た男は意外な成り行きに驚いていたが、

「は、はい、約10頭との事です」

「一人2頭だな」

「えー、私は無理よ」

 声を上げたのはエリスだ。

「じゃ、エリス抜きで」

「ご主人さま、私だけでも大丈夫ですが」

 ミュが声を上げた。

「携帯レールガンを試す機会ですから、私たちにもやらせて下さい」

 そう言ったのは、ラピスだ。私たちと言うのは、ラピスとエミリーの事だ。

「そう言えば、フェニはどうしている」

「さっき、表の木に停まっていましたから、呼べば来ると思います」

「フェニにも1頭狩らせよう。ラピスはビビで上空からやってくれ。では、その作戦で」

「「「「「はい」」」」」

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