第7話 冒険者とダンジョンと、新婚旅行(?)

 助けてくれた怪力少女に、観光案内までしてもらうことになった俺と弥生。

 少女は街に戻ると、まずどうしたいかと聞いてきた。

 なので俺たちは、異世界料理が食べたい、と希望した。

 弥生が当初望んでいたところに、なんだかんだで落ち着いた形だ。


 案内されたのは、オルトゥスの街の中でも、通りから一本入った路地裏。

 その入り組んだ道をひたすら奥まで進んだ先。

 などという辺鄙な場所に、その店はあった。


「自己紹介が遅れたけど……ボクはセリス! この辺で冒険者してます!」


 俺たち以外に客のいない、静かでこじんまりとした店内にて。

 テーブル席に座り、注文を終えた後。

 少女改めセリスは元気よく自己紹介した。


「俺は長田謙信。社畜だ」


 セリスの対面に座った俺は、手短にそう返す。

 と、セリスはぺこりと律儀に頭を下げてきた。

 俺の名前について、合ってないとか名前負けしてる……なんてことを言ってくる様子は微塵もない。

 名を名乗って突っ込まれなかったのなんて、いつ以来だろう。

 異世界って素晴らしい。


「わたしは水無白弥生! 女子高生!」


 俺の隣に座った弥生も、ハイテンションにそう名乗ると。


「あのさあのさ、セリスちゃん!」

「はい、なんですかヤヨイさん」

「冒険者って、どんなことする職業なの!?」


 どうやら弥生は、『冒険者』というワードが気になっていたらしい。

 まあ、この手のファンタジーでは割と定番だしな。


「えーっと……ギルドに登録して依頼を受けて……モンスター倒したり、商人さんを護衛したり、腕っぷし重視のお仕事が多いです。けど、ちょっとしたおつかいとか、迷子のペットを探したりなんて依頼もけっこうあるので、実質なんでも屋みたいな感じですね」 

「おー、なんかイメージどおりだ!」


 セリスの話を聞いて、目を輝かせる弥生。

 そこで俺は口を挟む。


「でもおつかいやペット探しじゃ、報酬的には大したことないんだろ?」 

「あ、確かに。セリスちゃんは強かったし、モンスターをビシバシ倒してたんまり稼いでる感じ? どっかの社畜のおにーさんと違って」


 余計なお世話だ。つーか今俺を引き合いに出す必要なかっただろ。

 ともあれ、そんな俺と弥生の問いに対し。

 セリスはにこにこと笑いながら。


「ボクは報酬額は気にせずに、色んな依頼を受けてます。冒険者になったのは、困ってる人を助けたいからなので」


 などと、胸を張って答える。

 弥生はそんなセリスに、生温かい視線を注ぐ。


「いい子だねえ、セリスちゃん。流石わたしたちの命の恩人っ!」


 手を伸ばし、セリスの頭を撫でる弥生。


「お役に立ててなによりですー……」


 セリスは満更でもなさそうに目を細める。

 早くも打ち解けた様子だ。

 比喩抜きで住む世界が違う二人だが、こうして見ると姉と妹っぽい雰囲気がある。

 頼りない姉の弥生と、しっかり者の妹であるセリスって感じか。


「……おにーさん」


 と、弥生がセリスの頭に手を置いたまま、俺に白い目を向けていた。


「なんか、キモい。視線が」

「ぐっ」


 直球。

 シンプルに突き刺さる言葉を投げかけられた。

 ……いやまあ、今のは割と自業自得だって自覚はある。

 噛み付かれたからって応戦したりはしないが、それでもなんかこう、キツい。


「あ、あの! 冒険者でお金儲けと言えば、腕利きの人はダンジョンなんかに潜ったりするんですよ?」


 空気が悪化しつつある、とでも思ったらしい。

 気を利かせたセリスが、やや唐突にそんなことを切り出してきた。


「ダンジョン!? なにそれ楽しそう!」


 弥生がすかさず、食いつく。


「あ、やっぱり異世界人の方って好きですよね、ダンジョン」


 どうやら俺たちと同じ世界から来た連中に対しての定番ネタらしい。

 日本に来た外国人観光客にとりあえず富士山の話するようなものだろうか。


「うんうん、わたしみたいなゲーム好きだと特にねえ。この後連れてってよセリスちゃん」

「えっと、冒険者が潜るようなダンジョンは危ない場所なので、お二人みたいな戦えない人が気軽に行くような場所では……」 

「む、そっかー……」


 あからさまに残念そうにする弥生。


「あ、ここからは遠いんですけど……隣の国には観光用のダンジョンなんかもあるみたいなので、良かったら行ってみてください」

「お、それは良い情報を聞いたかも。いずれそっちの方行ったら寄ってみよ、おにーさん!」


 楽しそうに、そんな提案をしてくる弥生。


「……まあ、そのうちな」

「うん、そのうちね!」


 弥生の口ぶりだと、今回に限らずこの先も俺と旅行するつもりのように聞こえる。まあ本人がそれでいいなら、俺も構わないが。

 こっちにいられるのは土日だけだし、隣の国に行くとかいつになるのやら。

 そんなやり取りをする俺と弥生のことを、セリスは何やら、羨望と尊敬の入り混じったような眼差しで見つめてきて。


「お似合いですよね、お二人って。新婚旅行……ボク憧れちゃいます」


 なんか、とんでもない勘違いをされていた。


「ちょ、ちょっと待った! わたしとおにーさんは、夫婦じゃないから」

「あ、これは早とちりを」


 慌てて否定する弥生に対し、軽く謝るセリスだが。 


「まだ婚前旅行でしたか。うん、そういうのもいいと思います、ボク」

「だから、そういう感じじゃないからね! 今日会ったばっかだし!」


 必死に間違いを正そうとする弥生に対し。

 セリスは首を傾げて。


「でもお二人、お似合いって感じなのに……もったいない」

「い、いやいや。年とか、一回りくらい違うからね」

「うーん……そうでしょうか? ちょうどいい感じのお年頃って感じに見えますけど」


 弥生の発言に対し、疑念を呈するセリス。

 なるほどこの辺りは、価値観の差だろう。

 現代日本では男の側が性犯罪者扱いされかねないような年齢差でも、異世界基準ならむしろ普通……なのかもしれない。


「……そう? ちょうどいい感じに見える?」

「はい、ボクはお似合いだと思います!」


 にこにこと、笑顔で答えるセリス。

 対する弥生は。


「ふーん……まあ、悪い気はしない……かも」


 満更でもなさそうにこっちを見ながら、くすりと微笑んできた。

 

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