VS初心者狩り

―――――――――――――――






「うっ!!」






あれからどれぐらい狩っていただろう。




アイテムボックスのスタミナエキスは、軽く三桁を超えている。




その集中が解けたのは、俺の腹にナイフが突き刺さったからだ。






「……あぶねー……」




逆手での戦闘にあまり慣れてないからだろうか、スラッシュの勢いのままホッケウルフと共に自分のお腹を突き刺してしまった。




ダブル切腹である。いや切腹は俺だけか。ホッケウルフは、俺の腹の前で塵となっていく。




おかげで体力ギリギリだわ……




「そろそろ辞め時だな」






もうこんだけ集まったらいいだろう。




これ以上やったら自殺で終わってしまう。それは締まりが悪い。




満足満足、帰――






「くっそ、格下苛めて楽しいのかよ」


「うう……」






少し遠くの方に倒れている二人。


粒子となっていくのを見るに、もうやられた後だな。


そして、その周りを……




「へっ、楽しーい!」


「経験値も全然貰えねーけど、剥ぎ取りでちょっとだけ稼げるからな」


「おいおい嘘つけ、キルするのが楽しいだけだろ?ははっ」




楽しそうに消えゆく二人を見ながら喋っている三人と、黙って付いている二人。合計五人だ。




レベルは見るからに五人の方が上。人数なんて酷い差だ。




所謂、『初心者狩り』だ。ネトゲには悲しいぐらい付き物である。




しかしまあ、MMOでは意外とこういう風景は減っていく。


正義感の強いプレイヤーってのは案外いるからな……しかし不幸にも、今回そんなお助けヒーローは居ない様だ。








「はあ」








溜息一つ。別にまあ、ほっといてもいいんけどね。




悪には悪の主義ってものがあるって、カッコよくない?




俺に主義なんてたいそうなもんはないけどさ……単純に、こういう光景が気に入らないんだよな。




俺みたいな悪質プレイヤーがカッコつけて何言ってんだって?一理あるわ。




んじゃ……ああそうだ、このナイフ逆手スタイルの練習ってことにしておこう。






「おい」






やっと考えが落ち着いた。




とれたてほやほやのスタミナエキスを一気飲みし、初心者狩り集団の前に出る。






「……なんだお前、一人だけかよ」


「とっとと失せな、特別に見逃してやるから」


「それとも俺達に混ざりたいのか?無理無理、我らのギルドマスター、『夜』さんにお願いしときな」






五人中の三人は仲が良さそうで、まるで一人が話しているかのように三人続けて口を開いた。


めんどいしこいつらを仲良し三人組としよう。


後ろの二人は見てるだけ。




……って。




おいおいなんだその格好いいギルドは。


折角良い名前なのに、お前らみたいなのが居たら評判最悪だろうけどな!






「聞いてんのか?」


「気味悪い、さっさと次『狩り』に行こうぜ」


「ああ」






俺がそんな事を頭に巡らせていると、ほっといてまた別のプレイヤーを襲いに行くようだ。




あー、俺を無視しないでくれよ。寂しいだろ?






「っ!!!」


「何しやがる!」


「おい、アイツだ」






狙ってほしそうな後ろ頭だったから、ついついナイフ投げちゃったよ。




急所に不意打ちで、結構ライフが減ったようだ。




絵にかいたような反応で少しニヤついてしまう。






「か、回復――」






させるかっての。




回復を見越して、ポーションを飲もうとする初心者狩り三人組の一人にナイフを追撃する。






「――ぶっ!」






うわっ漫画みたいなポーションの吹き出し方した。




面白いな君。不意打ちの連続で、早くもこいつはライフが半分になりそうだ。




……どうやらこれで、俺へのヘイトはマックスになったらしい。






「勝負しようぜ、格下共」






俺がそう吐き捨てれば、一斉に武器を構える初心者狩り集団。




弱い奴程、挑発ってのはよく効くんだよな。






「格下だと……?後悔すんなよお前」


「ちょっとレベルが高いだけで調子乗りやがって」


「いくぞお前ら!」






……この三人は、仲が良いらしく全員同じ装備だ。




片手にナイフ、布装備一式にフードを被っており、結構というかかなり被っている。




このポケットが俺のアイデンティティーという事で。




つーか今俺のレベル分かってる様な物言いだったな。何で分かった?




……まあいい、恐らく鑑定スキルか何かか。そういや鑑定スキルって全然レベル上がってないよな……




っといかん、今はこの戦闘に集中。






「あ、ああ!」


「……お、おう!」






この二人はちょっとアウェイ感が感じられる。やっと喋った。


レベルも低めだし、この三人に引っ張られている感じだ。


装備も一人が弓、二人目は魔法使い。こいつらは後衛か。






「――おらっ『スラッシュ』!」


「――『スラッシュ』!」


「――『スラッシュ』!」






ダッシュともに俺を取り囲み、武技を発動する仲良し三人組。




こいつらはやはり敏捷は結構あるようで、それを活かしたダッシュで一気に俺を取り囲み武技で叩く戦法のようだ。




良い作戦なんじゃない?まあ、当たるわけないけどさ。




「『疾走』」




加速。




三人組の武技を避ける事に成功した俺は、そのまま武技発動中の初心者狩りに肉薄する。




そのまま逆手に持ったナイフでーー






「ぐああああ!」






あ、死んだ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る