ショッピングと、闇への誘い

「すまんすまん、今どこだ?」


「今、始まりの町にいます!来れますか?」


「ああ。直ぐ向かう」


「良かった、場所が???ってなってたので大丈夫かなって……この前のカフェの前で待ってますね」


そう言うとカオリとのチャットが切れる。


やはり此処は名前が伏せられるんだな。……って、俺どうやってここから帰るの。


「なあ、ここからどうやって元の場所に戻るんだ?」


俺は先程の男に再度話しかける。


「……ああ、それならもう一度最初に渡した結晶を使うと良い」


便利だなこれ……よーし、戻るか。



―――――――――――――――――


俺はカフェに足を運ぶ。


「よ、カオリ。待たせたな」


「いえいえ!それじゃ……お願いします!」


えっと今日はカオリの装備選びだったか。


へえ、デートかよって?ないない。


「ああ、任しとけ」


ついでに俺の装備も買っちゃうか。



――――――――――――――――


「ふー、結構迷ったな。とりあえずこれで完成だ」


「はい、ありがとうございました!……ごつごつしてカッコいいです!そして新しい武器!えへへ」


今現在、カオリは新しい武器……アイアンハンマーをナデナデしている。素材が木から鉄へと変化した為、威圧感は抜群だ。怖えー。


防具はアイアン装備一式を勧めた。筋力に振っているためステータス制限など無い様のもんだったし。


というかこれしか着れないし。このゲームは鎧が筋力か体力、布装備が敏捷か器用か体力、ローブが知力か精神か体力に装備条件がある。


極振りでも装備が着れるようになっているのだ、素晴らしいなこのゲームは。


ちなみにカオリの見た目だが、威圧感は寧ろ減っている。顔も見えないから、意外と良いんじゃないこれ?


カオリは声は可愛いので、かなりナイスだと思う。図体は俺より一回り大きいままだけども。


防具を着たら見た目は弱体化したが、防御と魔防共に大幅に上昇している。ある程度は固くなっただろう。


ちなみに筋力値が防御力に影響するのかは分からない。単純な力ってだけでとらえるのなら、多少は上がると思うんだが……まあカオリが被弾したら分かることだ。




「漆黒さんは革装備一式なんですね!」



……ショッピング中に、俺の事は漆黒と呼ぶよう言っておいた。


理由は単純明快、長いから。



「ああ。スピード重視だからな」



ローブから革装備一式へと俺は変えた。防御力の向上に加え、少しだけだが敏捷値も底上げしてくれる便利な装備だ。見た目は完全にただの服だけど。カッコいいからいいか。


そして武器も初心者シリーズ卒業だ。『アイアンナイフ』へ入れ替え。従来より+10の攻撃力、敏捷値アップである。


これで色々と捗るだろう。そして……ついでにお面も買っておいた。



□□□□□□□□□□□□□



【スライムのお面】


サービス開始一ヶ月限定アバターアイテム。

スライムが仲間と思って近付いて来るかも?


品質:――

レアリティ:――



□□□□□□□□□□□□



まあ、よくある顔を隠すタイプのアバターアイテムだ。


ステータス変動も無く、ただの見た目だけのアイテム。


闇の職業だってのに顔がバレちゃ意味がないからな、取り合えずこれを買っておいた。



「そういえば職業選んでないんだな、カオリは」



フレンド欄には、未だに冒険者としかない。


「はい……ちょっと、まだ悩んでて。魔法使いになるか、このハンマーを使うような職業になるか」


うーむ。


「正直今の状態では、後者しかあり得ないな。ただハンマーを使うからって、魔法を手放す訳でもない……まあ、悩んで決めるといいぞ」


「はい……そういえば漆黒さんは職業見習い盗賊ってなってるんですけど、どこにも盗賊ギルド何てないですよね?」


あ、これは見えてるのこれ。まあいいか。


「ああ――これは闇の職業だ」


思いっ切り悪い顔をしてカオリにそう言えば、ハテナマークを浮かべる。


「闇の職業って何ですか?」


うーん、いざ聞かれると困るもんだな。


「例えば……俺達は今までモンスターを狩って経験値を稼いできただろ?」


「はい」


「それが、悪い事、プレイヤーキルとかして経験値を稼ぐようになるって事よ」


簡単に言えばそんな感じだろう。


俺がそう言うと、目を丸くするカオリ。



「え……プレイヤーキルって、その、人を殺すって事です、よね?」



まあ日本語に訳すとそうなるわな。



「はは、まあそうだ。ゲームだから死んだらリポップするけどな。その他にも他人から金を盗んだり、よそ者の家に勝手に入ってあんなものやこんなものを盗んだり……ん?」



俺が思い付く限りの悪行を並べていると、アカリの様子がおかしくなっているのに気付く。




「そ、そんな、非現実な……へへ、凄い事出来るんですか?えへへ」




ヘルムが顔を隠していて、こんなにも良かったと思える事などない。


気持ち悪い笑い声を出しながら、ヘルムの隙間から荒い息が溢れている。



「……お前、まさか俺と同じ『闇の世界』に足を踏み入れる気か」



カオリの肩を掴み、目を合わせてそう問う。


我ながらノリノリである。



「う、わ、私に出来ますかね……?」



カオリは、弱々しくそんな事を言った。



「ああ。ただ最初は中々大変だろう……だから、そこは俺が一緒にやってやるよ」



こんな近くに、同志が現れようとしているんだ。幾らでも手伝ってやるさ。



「……また、漆黒さんと一緒に、へへ……よろしくお願いします!!」



うんうん。まさかこんな始めたばかりに仲間が出来るとは。



「よーし、さっそく三人ぐらい殺りに行くか!」


「は、はーい!……え?」



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