お邪魔じゃなければお邪魔します

うーん。

顔も好みだけど、ポジトくんのポジティブシンキングの純度の高さ!

混じりけがないから鼻に付かずにすっ、と入ってきたわ。


「ありがとう。堪能したよ」

「どういうこと? なんで頭が痛いんだ?」

「ほら、さっき偏頭痛って言ったでしょ。それだよ」

「頭痛の種類じゃなくって!」

「ああ、『なんで』って原因の方ね。それはね、ポジトくんのプラス思考を吸い取らせてもらったからよ」

「なにそれ? そんなことできるわけ・・・」

「あるからこうなってるんじゃない。吸い取らせてもらった代償として頭痛が伴うのよ」

「『代償』の使い方間違ってる」

「いいからいいから。ほら、段々気が重くなってこない?」

「う・・・そういえば・・・」

「疲れてやる気が出ないでしょ」

「・・・うん。なんだか、疲れた」

「じゃあ、ポジトくんの家に案内して。多分、断る元気もないでしょ」

「うん・・・どうでもいい。早く家に帰りたい」


・・・・・・・・・


どうやら血族でもポジトくん以外にはわたしは見えないみたい。ポジトくんのお母さんはすんなりわたしを通してくれたもんね。

それにしても・・・寝顔もかわいいなあ。まあ、これだけ前向きな子だったら一眠りしたらもうポジティブが溜まってるだろうな。


「あ、起きた?」

「う・・・ん。あ。やっぱりいたんだ」

「またあ。ポジトくんが案内してくれたんじゃない」

「・・・ところで、ウチに来てどうするつもりなんだ?」

「もちろん。ここでしばらく暮らすのよ。一緒に」

「ええ⁈」

「当然じゃない。ポジトくんみたいなポジづるそう簡単に手放せないよ。それで段々と渋いイイ男に仕立ててあげるから」

「人をウツにしといてなんて言い草だ」

「だって、翳りがある方がカッコよくていいでしょ」

「冗談じゃない。僕は今とても充実してるんだ。早くコウ高校に入ってインターハイ目指したいんだ。ウツになってる暇なんかない」

「まあそう言わずに。ウツもいいもんだよ」

「自分がなってみればいいんだ」


・・・・・・・・・


まあとにかくポジトくんが納得してくれてよかった。もっと吸い取るぞ、って言っただけだから恐喝でもないし。それより退屈だな。なんかして遊びたいな。


「ね。ポジトくん。『一生いっしょうゲーム』やらない?」

「一生ゲーム?」

「そ。わたしのいた所で流行ってたんだ」

「どんなやつ」

「これ」


うーん。いつ見てもきらびやかだね。

右半分がポジティブサイド。

左半分がネガティブサイド。

このバランス美がたまらないね。


「もしかして止まったマス目に書いてあることが本当にやらなきゃいけないとか」

「あ、よくわかったわね」

「い・・・いやだー! 絶対やらん!」

「まあそう言わずに。ほら。やってくれたらさっきの続きしてあげるよ」


ちゅっ、とキスする真似してウインクしてと・・・イチコロでしょ。


「いやだ。お前なんかとしたくない!」

「え。どうしても?」

「絶対だ」

「そ、そんな・・・」

「あれ? ちょっと、そんな泣くなんて大げさな」

「う・・・あーん、せっかく遠路はるばるやってきて苦労して出会えたのに! もう、こうなったらわたしの泣き声、霊体モードで家族に聞こえるようにしてやる!」

「ちょ。母さんに聞こえたらマズイよ」

「ふん! マズいのはポジトくんだけでわたしはちっともマズくない!」

「ご、ごめん! やる、一生いっしょうゲームやるから・・・勘弁してください」

「そう、そんなにしたい?」

「はい。僕はウツムキとゲームがしたいです」

「よーし。じゃあ、わたしからね。えいっ!」


お。やった! いきなりネガティブボーナスポイントだ。


「はい。これがわたしからポジトくんへの指令」

「え。『屋根の上で体育座りをし、月を見上げてため息を三回つく』? なにこれ?」

「そうすれば何かが起こるわ」

「内容も分からないのに、できない」

「う・・・あーん!」

「わかった、やるよ!」


・・・・・・・・・・・・・・


「ポジトくん、落ちないように気を付けてね」

「そんなこと言うなら最初からやらせるなよ」


おー、よしよし。ポジトくん、いー子だよー。

ちょうど銀盆みたいなまあるいお月様が屋根の上に出てる。


「ほら、体育座りしたよ。月も見上げた」

「ため息ついて」

「あーあ」

「あと二回」

「あーあ。あーあ」

「呼んだかい~?」

「わっ!」


お。来た来た。


「ウッチー、おひさ」

「猫が喋った!」

「ポジトくーん。わたしの存在を肯定できるんなら、プサムが喋ったってどうってことないでしょ」

「だれもウツムキのこと肯定してない。それよりこの猫は?」

「猫・・・失礼なガキだねえ」

「ガキって・・・あーあ。なんで猫にまでこんなこと言われなきゃならないんだ」

「ポジトくん。プサムは猫じゃないよ」

「白黒のどう見たって猫じゃないか」

「はあ、まったく近頃のガキは~。無礼を恥とも思っちゃいない」

「ポジトくん。プサムに媚び売っといた方がいいよ。閻魔様えんまさま名代みょうだいだから」

「え。閻魔様って、地獄の?」

「そう」

「なんで猫が・・・」

「いい加減にしろよ、このガキ。お前の閻魔帳ねつ造するぞ!」

「ほら、ポジトくん、謝って」

「もういいよ。ガキのたわ言ぐらい」


おっと。ゲームの続きを忘れるところだった。


「それでね、ポジトくん。ため息三回でプサムを呼ぶようにゲームの指示があったのはねえ、あなたのポジティブストックを地獄の釜に注入するためなのよ」

「? 言ってる意味が分かんない」

「ガキには何言ったってわかんないよ」

「プサム、コミュニケーションをあきらめたらダメだよ。でねえ。ポジトくんのポジティブシンキングはどんなに吸い取っても枯れずに次々生成されるから、地獄の釜に流し続けたらどうか、って話で」

「お前のポジティブシンキングを釜に流せば、大勢の亡者どもが成仏するかもしれないんだぞ」

「やだよ。ウツムキの餌にするだけでもあんなにきついのに、これ以上やったらほんとにウツになっちゃうよ」

「大丈夫。加減しながら抜き取るから」


押して押してポジトくんをその気にさせなくちゃ。

さて、わたしはそろそろワープの用意でもしとくかな。


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