第6話 シゴト

 翌朝。目覚めた少年は〝友達〟が動いているのを見て驚いた。しかし、すぐに昨夜の出来事を思い出した。〝友達〟は自力で動けるようになったのだ。

 少年が起きたのに気付いて、〝友達〟は言った。

『オハヨウ』

「……おはよう」

 少年は仕事に向かう支度をしながら、はっと思いついた。〝友達〟の働き口を探してやらなくてはいけない。この街で「働かない」とは罪だ。少年の〝友達〟も例外ではない。

 その日、少年は〝友達〟を連れて仕事場へと向かった。工場に入ると、案の定と言うべきか、周りから奇異の目が向けられた。

「おい、誰だ、あのへんちくりん」

「知らないよ。あの子(少年のこと)の連れじゃないのか」

「そんなの見れば分かるよ」

 ひとり、またひとりと、憶測交じりの会話に加わって行く。最初は隙間風のような囁きだったが、次第に機械の駆動音より大きくなっていく。

 持ち場に着くと、隣の五〇番さんがぎょっとして少年に聞いた。視線の先には少年の〝友達〟がいた。

「ねぇ。その子は、いったい」

「えっと。〝友達〟だよ」

「トモダチ?」

「う、うん。昨日の帰りに会って……」少年は咄嗟に嘘をついてしまった。自分が作ったなんてばれたら、きっとバカにされる。「あ、そうそう。この子、仕事がないみたいなんだ。この工場で働かせてあげられないかな」

「ボクにそれを決める権限はないヨ。工場長のところに行った方がいいネ。あっちの、管理室にいると思うから」

 言われた通り、少年は管理室へと赴いた。少年の寝床と同じくらいの大きさの部屋だ。広い机と、それに向かい合うように長椅子が設けられている。一方の椅子に工場長が座っていた。少年がやってきたのを見て、「どうしたのかね」と声を掛ける。工場長は少年の後に入ってきた人間を見ると、ふたりに席を促した。

 少年は〝友達〟をここで働かせてもらえないかと頼んだ。この街では働かないものに意義はない。この子には仕事がない。ぼくが小屋に帰っている間、この子が代わりに働けば作業も滞りなく進むはずだ。〝友達〟は随分物知りだし、きっと役に立つ。

 ひとしきり少年の話を聞くと、工場長はすんなりと首を縦に振った。作業員が増えるのはありがたい。今日からでも、少年が帰った後を頼みたい、と。

 五〇番さんのところに戻り、改めて〝友達〟を紹介した。

「よろしくネ、トモダチくん。分からないことがあったラ、何でも聞いて」

 その日の夜。少年が仕事を終えてから、〝友達〟は少年の持ち場で仕事を始めた。


〝友達〟の働きぶりはまずまずだった。少年ほど手際が良い訳ではないが、間違いを犯すことはない。手順は正しく、袋の裏の数値もきちんと読めた。五〇番さんの手助けもあり、他の作業員とほぼ同等の働きが出来ていた。

 明け方、少年が起きるころに〝友達〟は帰宅する。そして、少年が仕事に向かった後、ひとりになった小屋の中であの紙束を読む。少年が帰宅して寝付くまでは〝友達〟も一緒に居る。その間に、読んだ内容を少年に話して聞かせた。それがふたりの日課となっていた。

 少年は〝友達〟のおかげで、以前は読めなかった文字が理解できるようになった。紙束の絵と、それに添えられた文字を読み、遠く、この街の外側へと思いを馳せるようになった。

 ある日。少年は眠る前に〝友達〟に聞いた。

「ねぇ。旅って何?」

『遠ク、ニ、出カケル。目的、様々。行キタイ場所ニ、行ク。見タイ物ヲ、見ル。目的無シ、モ、旅ノ醍醐味』

「へぇ……」

 旅。旅かぁ。

 果たして、この街の外に出られるのだろうか。ここしばらく、〝友達〟と一緒に仕事を頑張ってきた。一日くらい、休みを取っても良いのではないか。その休みで街の外に出てみる。別の世界を見に行く。そう考えると胸がときめいた。

 その日の夜。少年はなかなか寝付けなかった。

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