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 実は蜂ロボmark3以降、改良の予定は無かった。しかしかなり伝統のある老舗果樹園(ただ古いだけじゃないのか?)のオーナーがこう訴えた。

 「君たちに理解されるか心配だが、ひとつひとつの木が、我が子と変わらないのだ。機械で乱暴に扱われたくない。もっと自然な形に出来ないか?」

 老木はそんなにナイーブなんだろうか。結局人工的に実らせるのだから、小さい機械だろうが筆だろうが、さして変わりはないと思うのだが、特別な製法であると箔をつけたいってのは、まあ判る。

 バッキーとこの件について話したら、俺は15分ひたすら罵倒され、次の15分で専門用語責めにあった。要約すると”今すぐ断れ”だ。バッキーは早口で言う。

 「いいかい、何かを完璧に模倣したらそれはもう本物になってしまう。アランだってヒューマノイドの物語をひとつやふたつ知っているよね。最後はどうなる?」

 「ヒューマノイドって人の見た目をしたロボットだよな。そうだな、俺が知ってるのだとだいたい反乱を起こすかな。でも俺たちが作ってるのは蜂……」

 バッキーは大声でアランは勉強不足だ、と口癖を言った。

 「違うよ! 人間のようなロボットは人間のようなエラーを起こすけど、それは本質じゃない。似せたモノはコピー元の不具合をそのまま引き起こす。つまりだ、蜂っぽくすればするほど、自然蜂のようにゴッソリ居なくなるかもしれないんだよ!」

 俺はうなった。

 「そりゃあ、本物と間違えられて盗まれるとか、他はあれだ、子供に誤った知識を与えるからうんぬんで回収とか、形状がオスバチだから女王蜂が間違えるとか、そういうリスクはあるだろうけど、俺が考え付くぐらいだから、もう手に負える話じゃないか。それにさ……」

 俺は史上最高額の契約書をテーブルに放った。

 「ここで止めたら業績と信頼に響くよ」

 バッキーは顔を真っ赤にして、何かわめいて、テーブルにあったコップをシンクに叩きつけた。(そして俺はソファーに座ったまま次のステップを待って)バッキーは怒鳴り散らした。

 「絶対絶対絶対安全なものを作るからな! 僕が納得するまで教えないし技術者に相談したらただじゃおかないぞ、8の字羽ばたきとワイキョク視野認識その他包括したミニマムドローン特許を丸っきりフリーライセンスにしてやるからな!」

 バッキーは玄関のドアをドカンと閉めて家に帰った。

 ああいう偏屈な情熱家、個人的に嫌いじゃない。おちょくってるんじゃなく、いつか本当に悪だくみしている輩にテキトーに扱われるんじゃないかと心配になるのだ。本当に。

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