絆の力

「フハハハハハ! 異世界の勇者、きむらよ、貴様の命運も尽きたな。さっさと死ぬがよい!」


「くそっ、すまない、皆……!」


 俺は魔王の攻撃の前に成す術もなく追い詰められ、無様にも地面に這いつくばり、嗚咽を漏らした。魔王さーもんの力は絶大だ。仲間は道半ばで力尽き、残るは俺だけだ。だが、今の俺では到底敵わない。力が欲しい、悪を払う大きな力が……!


——勇者きむらよ、諦めてはなりません。まだ打ち勝つチャンスはあります。


 俺の頭の中に声が響く。この声は、女神様。俺に力を授け、世界の命運を託してくれたあの女神様だ。


「ここから……どうやって勝てばいいんだよ……! もう俺に力なんて……!」


——胸に手を当てなさい。そして思い出すのです。この冒険で培ってきた絆というものを。


「……絆? 今は俺一人しかいない。これじゃ到底魔王に太刀打ちできない」


——いいえ、そんなことはありません。彼らもあなたのことを思っているのです。必ず魔王に勝ち、平和を取り戻してくれるのだと。心の声を聞くのです。そしてその願いを受け入れなさい。そうすれば、おのずと活路を見いだせるでしょう……。


 俺はわらをもつかむ気持ちで、心を研ぎ澄ませる。これは……聞こえる、俺を呼ぶ誰かの声が聞こえる!


「きむら。まだ諦めないでね。私との約束、わすれちゃだめよ」


 この声は……エミ。これまで一緒に戦ってきた仲間だ。うん、そうだよな。ここで負けたら、約束は果たせない。


「俺もいるぜ」


「僕もね」


 ダクヤ、ヒロシ、お前たちまで。


「私だけじゃない。みんな来てるんだよ。君を助けるためにね」


 エミがそう言うと後ろに手をやった。おびただしい数の人たちがそこには立っていた。


「皆……!」


 多くの人々が、俺のため、いや、世界のために力を貸してくれるというのだ。俺は感極まって泣きそうになったが、ぐっとこらえた。今は泣いている場合ではない。戦いの最中だ。泣くのは終ってからでいいよな……!


「絶対帰って来いよ。宴の準備して待ってるからよ」


 ハンス……ああ、とびきり豪華な食事を用意しとけよ!


「まったく、僕がいないと何にもできないのかい? 手を貸してやりたいけど、今は貸せない。だから一人でやるんだ。やり遂げたら一人前として認めてやるよ」


 グレン隊長……へっ、わかってるよ、絶対やり遂げて一人前だと認めさせてやるぜ!


「命令その一。魔王の撃破。命令その二。きむらの生存。命令は絶対。違反したら許さない」


 ケイ司令……。相変わらず無感情な喋り方だけど、今は感情丸出しだぜ。わかった、絶対に失敗しねえからよ、見ててくれ!


「さすが俺の見込んだ男だ、絶対ここまで来ると思ったぜ。ここまで来たらあとは突っ走るしかねえよな。頑張れよ!」


 ジョーさん……。ああ、俺の走りをまだまだ止めるわけにはいかねえよな! 


「おにいちゃん。またあそぼーね。がんばれー」


 エリン……。ありがとう。また遊んであげるからおとなしく待っててくれよな。


「あのときはお世話になりました。今の私がいるのはあなたのおかげです。だから、今度は私があなたを助けます」


 アノ村のニーナさん……。あなたの薬には十分助けられた。もう少しだけ、力を貸してくれ!


「ふん、小童。お前のことは認めんが、その心意気だけは認めてやる。勝て!」


 アーノルドじいさん……相変わらず、頑固爺だぜ。


「あなた、すぐ無理するんだから、心配ねえ。でも、魔王を倒したらその心配もいらないわ。だからその心配の元を断つのよ、きむら!」


 シャーリーおばさん……。心配かけてごめんな。でも、あとちょっとなんだ。頑張るよ!


「めんどくせえ……めんどくせえけどよお、お前がなんとかしてくれなきゃもっとめんどくせえことになる。だから仕方ねえ。手ぇ貸すよ」


 ランスさん……。わかったよ、面倒くさいやつめ!


「やっほー! 聞こえてるー? 魔王と戦ってるんだよね? 負けてるの? でもこのプリム様が来たからもう安心なんだからね! どーんとやっちゃいなさい!」


 プリム……今日も元気だな。


「ちゃんと生きて帰って来いよ。でないと貸した金、帰ってこないだろ」


 誰だっけこの人?


「彼奴を斃し、どうか拙者のような人間が不要な世の中を作り上げて欲しい。恃んだぞ」


 暗殺者グリン。お前が敵だった頃は結構苦しめられたが、味方になったときは心強かったぜ。


「きむらにゃん。がんばってにゃん。僕たちネコビト族からのお願だにゃん」


 族長ミルモ……。本当に猫耳の種族がいてびっくりしたぜ。


「そなたは私の国を救ってくれた。魔王を倒し、世界も救ってくれると信じておるぞ」


 イムネシン王国のイメ王子……。そう、あのとき救えたんだ、世界もちゃっちゃと救って見せるぜ。


「おい、勇者よ。話進まないからそろそろ締めてくれない?」


 うるさい魔王さーもん。まだまだいっぱい話したい人がいるんだよ。黙っとけ。


「あらあら、物騒なことになってますわねえ。でも、もう大丈夫よ。わたしがそこにいれば殺してあげるのに……残念だわ」


 マチルダ姉さん……。あんたも物騒だな。


「へへっ、俺っちを忘れちゃなんねえっすよ、旦那」


 ごめん、忘れた。誰だっけ。


「うおおおおおお!! 勝てええええええ!! きむらあああああああああ!!」


 相変わらず騒がしい奴だなアレクは! わかってるよ、勝つよ!


「あの……うまく言えないんですが……頑張ってください」


 エレン。ありがとう。頑張るぜ!


「きむら、こっちの世界に戻ってきたら、またラーメン食いに行こうぜ。いい店見つけたんだ」


 元の世界の奴まで……おう、付き合うぜ、藤島!


「勇者、聞いてるのか。そろそろ次のシーンへ移れ。長すぎる」


 だからまだこっちは終わってねえっつうの、クソ魔王。ラーメンでも食いながら待ってろ!


「よぉ、俺の出番か、と思ったらえれぇことになってやがる。本当は俺が活躍したかったんだが、そこは譲ってやる」


 ベルンハルト……。残念ながらお前の出番は一生回ってこないぜ!


「あなたが勝利できる可能性は0.1%。勝てる見込みはありません。ですが、信じています。確率の壁を乗り越えてくれることを」


 ヒムラー……大丈夫だ、こういうときの数字って当てにならないもんだぜ!


「わんわん! わんわんわん!」


 いい子だな、ラッキーちゃんは。


「光が見える。きむらという一筋の光が」


 うん、ありがとう、知らない人。


「我が終生のライバル、きむら! お前を倒すのは俺だ。ここで死ぬようなお前ではない!」


 セインか、勝負ならいつでも受けて立つぜ! これが終わったらな!


「どうかエルフの里も救ってください。」


 エルフのシルキー……。もちろん救って見せるぜ。


「お前が勝ったら、俺も新しい商売探さねえとな!」


 武器屋のおっさん。そういう日が来るといいな。


「魔王戦の後はメシ奢れよ。約


(その後数百人の仲間たちの応援メッセージが続くため以下省略)


土産話に期待しているわ!」


 当然だ、首を長くして待ってくれ、母さん!


「うおおおおおお! 力が沸いてきたぜええええええ! 魔王、勝負だ!」


「んぁ? え? あ、終わったの? フ、フハハハハハ、決着のときが来たようだな。その程度の力、屁でもないわ! もしこのわしに通用するというならば見せてみるがいい、絆という力を! さあ、かかってこい!」


 次回、魔王対勇者、ついに終結……!  


※続きません。

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